小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔5〕ハイパーインフレは避けられない

(2) 円の発行額は正常値の8倍を超えた(前編)

 日本の通貨は、円です。そしてアメリカの通貨は、ドルです。通貨とは,一体何のために、どういう根拠で発行されているのでしょうか?

 通貨は元々、原始的な状態から社会が発展して物々交換が非効率になったことから、経済取引を円滑に行うために考え出されたものです。古代に先ず米、絹、布といった直ぐには劣化しない、しかも価値あるモノが物々交換を仲立ちするものとして使われましたが、やがてそれより便利な貨幣が使われ始めます。

 日本で最初に使われた貨幣は国産のものではなく、中国から伝えられた銀貨や銅貨です。現存する最古の銀貨は無文銀銭〈むもんぎんせん〉(7世紀)で、最古の銅貨は富本銭〈ふほんせん〉、そして最古の金貨は開基勝宝〈かいきしょほう〉(何れも8世紀)です。しかし経済が発展するにつれて中国から輸入する貨幣だけでは足りなくなってきたので、8世紀初頭(奈良時代半ば)から10世紀半ば(平安時代半ば)にかけて12種類の銅貨が発行されました。これは皇朝十二銭と呼ばれているものです。しかし、その後国産の通貨鋳造は再び途絶え、中国(宋、明)から銅貨を輸入して国内に流通させます。



富本銭(左)と開基勝宝(右)
〔画像出典:Wikipedia File:Fuhon-sen.JPG (富本銭)、File:Japan known coin types from 708 to 958.jpg 著作権者:PHGCOM(開基勝宝)〕

 そして再び通貨が国産されるのは、戦国時代になってからで、大名が通貨を発行するようになります。この背後には、当時の日本で金・銀山が多く開発されたことがあります。特に日本の銀生産量は世界の総生産量の3分の1に達し、東アジアでのオランダやポルトガルを含む各国の利用する国際通貨として日本の銀が活用されるようになりました。

 そうして、江戸時代に金・銀・銅の三貨制度となり(その詳しい説明はここ)、明治新政府によってそれに代わる円が発行されて現在に至っています。

 江戸時代まで、通貨が金属で造られていたときは(藩札など例外もあります)、通貨の価値は通貨自身が証明していました。金、銀、銅にはそれぞれに相場で評価される価値があったからです。しかし、明治時代に入って円が札として発行されると通貨自身ではその価値を証明できなくなったので、それを政府が保証することとなりました。その政府の保証制度として一般的に使われたのが最初は銀本位制、次いで金本位制でした。通貨を中央銀行に持っていけば、その額面で保証された量の金や銀の実物と交換してくれたのです。このようにして金や銀との交換を保証された通貨を兌換〈だかん〉通貨と呼んでいます。そうしておけば、違った国同士の貿易も、貴重金属との交換を保証された安全な通貨を使って行われることとなり、そのことにより国際貿易は発展しました。

 しかし貴重金属の産出量は、国によっては経済発展と同じ速さでは増やせなくなったので、政府に対する信用のみを背景に通貨が発行されることになります。そうして各国の違った通貨の交換比率を決める為替市場が生まれました。しかし、各国が政府の都合により多くの通貨を発行することがあり、通貨の信用が失われることとなり、通貨の信用を確保するために先進各国は競って金本位制、つまり通貨と金との交換を保証する兌換通貨を発行する、と言うことになりました。

 ただ、それでは発行通貨高を自由にできないので、不況が訪れると通貨を余分に発行するために金本位制から離脱すると言うことも頻繁に行われました。日本でも金本位制からの離脱が行われ、世界恐慌の影響から日本が一番早く立ち直ったのは、蔵相高橋是清が果敢に金本位制から離脱して積極的な財政・金融政策を採ったからだと評価する経済学者が多いのです(小塩丙九郎はその見解に同意しませんが、その理由はここに述べています)。

 第2次大戦中の1944年、アメリカのブリトン・ウッズに参集した連合国代表は、戦後体制をどうするかについて議論した結果、再び世界を統一した金本位制におくことにしました。アメリカのドルを金と交換できる兌換通貨として、さらに各国通貨とドルとの交換比率、つまり為替レート、を固定することとしたのです。

 こうしてできた戦後の“ブレトン・ウッズ体制”に、日本は1949年に組み込まれました(その詳しい説明はここ)。そのために、日本はアメリカ本国から派遣された経済学者でもあるデトロイト銀行頭取のジョゼフ・ドッジにより超緊縮財政をとることを強要され、そのことによりハイパーインフレが抑えられました(詳しい説明はここ)。

 しかし、戦後のドイツや日本の経済発展により貿易赤字と財政赤字に追い込まれた、とアメリカ政府が主張する、ことにより、1971年にリチャード・ニクソン大統領により金本位制が停止され、以降世界は自由市場で為替レートが決まる現在の貨幣制度に移行しています(その詳しい説明はここ)。これ以降、各国通貨はアメリカや或いはそれぞれの国が保有する金の量とは無関係に、その国の政府が健全な財政・金融政策を実行しているという信用の大きさと各国の経済の強さの度合いに応じて通貨の価値を世界の自由な為替市場が評価すると言う仕組みになっています。そして日本の円も、もちろんその仕組みの枠組みの中に置かれています。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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