小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔5〕ハイパーインフレは避けられない

(1) 国民の金融資産の3分の1は失われた

 2015年度末の日本の純資産総額は1,534兆円です。これは、GDPの3倍に相当する金額です(2015年度GDP=503兆円)。そして誰が一番の資産家と言えば家計、つまり国民一般世帯、です。2015年度末の家計の純資産額は1,360兆円で、国全体の純総資産額のおよそ9割(88.6パーセント)を占めています)下のグラフを参照ください)。

出典:日銀『資金循環統計』データを素に作成。

 家計の総資産額は、2015年度末には1,752兆円あるのですが、一方負債が392兆円あるので、総資産額から負債総額を引いた純、つまりネットの、資産額は1,534兆円だと言うことです。ちなみに負債総額のうちそのおよそ半分の201兆円は住宅ローン残高です。

 家計の他に、純資産をもっている者は僅かです。日銀(28兆円)を別にすると、金融機関が121兆、非営利法人が25兆円ずつ持っています。この金融機関の純資産額は近年増えつつあります。しかしこれは、金融機関が豊かになったというよりは、増えた企業からの預金が貸す相手もなく金庫に眠っているということの裏返しですので、喜ぶべきことではないと思います。いずれにしても、日本の純資産の大半は家計が持っているということで、日本の産業資本は家計の資産を基礎に賄われることになっているはずだということになります。

 問題は、その家計、つまり国民、が提供する資産を一体誰が使っているのかと言うことです。家計を含む機関種類別の純資産・純負債額の変遷をグラフに描いて見ると、とんでもない事実が露わになります(下のグラフを参照ください)。

出典:日銀『資金循環統計』データを素に作成。

 正常な経済状態にある近代資本主義国では、家計が蓄積した純資産を企業が資本として利用して事業を行っています。そして民間企業が行う事業が利益を産んで、それがまた再投資されて国の経済が発展を続けるのです。企業の純負債は、言うなれば企業の産業発展の活発さを示す指標であると言えます。ところが、1990年代半ばより企業の純負債額は減り続けています。

 その一方で、純負債額が増えているのは、一般政府と海外資本です。一般政府には地方自治体も含まれますが、主には日本政府です。2015年度末の一般政府の純負債額の総負債額に対するシェアは45.4パーセントとほぼ半分の水準に高まっています。民間企業のシェアは31.7パーセントですから、一般政府のシェアは民間企業より4割以上(43.5パーセント)も多いのです。

 民間企業の純負債と言うのは、事業資金の財源になるのですが、しかし政府の純負債額と言うのは、そのすべてが経済成長に貢献すると言うものではありません。2015年度末の一般政府の純債務額は695兆円ですが、うち534兆円は赤字国債(特例国債)です。建設国債は、道路、空港、ダムといった国や地方のインフラ整備のために投資されているものなので、それは日本の産業環境を向上させ、それによって民間企業の活動が活発になって経済成長を産むという働きをもっています。しかし赤字国債は今後の投資財源でなく、今日の政府財政の赤字を補てんすることにしか使われませんから、ある年度に発行された国債はその年度のうちに消費し尽くされて、後に借金証書だけが残っています。それが534兆円あると言うことです。

 国債を発行するためには個人や企業の場合と違って政府は担保を差し出す必要がありません。建設国債の場合は、建設されたインフラがモノとして残っていますので、それを処分して換金することはできませんが、国民の資産としては存在しています。しかし赤字国債の場合は、担保もなければそれによってつくられたモノもありません。いわば国民にとっての消費者金融と同じで、裏打ちのない負債です。そのような足のない幽霊のような純負債が、国の総純負債額の3分の1を超えているのです(34.8パーセント)。

 つまり、純負債総額のうち半分近くが政府の純負債になったということは、経済発展のために使われるべき国民資産の3分の1が既に消え去ってしまっているということを意味しています。日本国民は、戦後営々として蓄積してきた金融資産の3分の1を既に失ってしまったのです。さらに近年国民が新たな貯蓄を行うことはなく、むしろ国民自身が資産を取り崩し始めています(その説明はここ)。

 また、これは政府が赤字国債と認めているものだけについて進めてきた議論ですが、実際には実質的な赤字国債はさらに相当大きな額となっている可能性があります(その説明はここ)。ですから、国民の金融資産の3分の1が失われているというのは、とても控えめに見たときの数字です。実態は、さらに国民の金融資産の喪失が進んでいる可能性があり、しかも、日本の国全体の資産の喪失は今後もますます進むのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
©一部転載の時は、「『小塩丙九郎の歴史・経済データバンク』より転載」と記載ください。



end of the page