小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔4〕国債の置かれた土壇場の風景

(5) 闇赤字国債

 国債には、2つの種類があります。建設国債と赤字国債です。建設国債とは、道路やダムなどの公共施設をつくる財源とするもので、それは優良な国債と考えられています。建設国債を財源としてつくったインフラは、国の経済成長に寄与して、それが将来の国の歳入を増やすことになるので、国債を起こしても、つまり借金しても、それは十分に採算的なことだからです。或いは、そうした採算が見込めるインフラの建設費を得ることを目的としたのが建設国債です。

 一方、赤字国債とは、財政法では特例国債と呼ばれるもので、原則としてその発行が禁止されています。財政が赤字になったからと言って借金を重ねれば、やがて国の財政が破綻してしまうことになるからです。しかしどうしてもやむを得ないという特別の事情がある場合に限って、毎年度の予算をつくる度に国会で一々決議して、1年に限って起債することが許されています。戦前に軍部の要求に対抗できずに赤字国債を積み上げて財政破綻に行ったことを教訓としています。だから、“特例”国債なのです。

 先に、国債の借り替えということについて説明しました。しかし、建設国債については、満期が来る頃には、それを利用して整備インフラの経済効果が上がっていて、法人税や所得税という形で国の歳入に貢献しているはずなのですから、本来、建設国債の借り替えということはあり得ないはずです。ということは、建設国債が借り替えられた瞬間に、建設国債は赤字国債に性格が変わっているということになるはずです。ですから、建設国債を借り替えるならば、政府は、建設国債の元金を返済する財源の回収に失敗したので、その分を赤字国債を発行して穴埋めするという方針を公表して、その是非が国会で予算の一部として同時に議論されるべきですし、勿論国民にも明らかにされなければならなりません。つまり、その年の赤字国債の発行総額は、その年の新規赤字国債の発行額にその年度中に満期のくる建設国債の借り替え分の発行額を足した額となるべきです。

 しかし、国債の発行現場では、特に近年長期の国債が好まれてはいないために、数年から10年の償還期間を持つ国債を発行して、満期が来る度に借り替える、つまり、古い国債の償還財源をそれに代わる新しい国債を発行して工面する、ことが行われています。だから、建設国債は予め借り替えられることを想定して発行されるのだから問題はないという反論があるかもしれません。しかし、それでは当初の建設国債を発行するとき、その国債が所定の歳入という果実を産む前に、発行当時には予見できない将来の金融市場の下で、発行当時には計画できないコストの借金をすることになります。それでは、本来の建設国債の発行に伴う収支計画が成り立っていないことになります。だから、建設国債の借り替えというのは、余りの便法で、そもそも建設国債という制度が破綻していることになります。

 長期国債は返済までの間の物価上昇その他のリスクを織り込んで、短期国債より金利は高くなっています。或いは、近年売られ始めたインフレ連動債という方法もあります。償還期間をきちんと決めて、満期になったら何が何でも返すんだという気概があれば、いろんな方法が考えられるでしょう。満期がきても借り替えればいいという、その現実合せの態度が、結局のところ国債発行に臨む政府や財務省の規律を失わせているのではないでしょうか? そこまで考えると、やはり建設国債を借り替えるのはルール違反だし、どうしても借り替えざるを得ないのだとしたら、それはやはり赤字国債ということになるでしょう。

 さらに、随分と前に発行された30年以上の満期の建設国債の借り換えは、以上の議論が必要ないほどに、その正当性はありません。

 先に政府は、赤字国債の発行額を債務償還費という奇妙な予算科目を利用して小さく見せているというように説明しましたが(ここ)、実は、その年の赤字国債の本当の発行総額は、新規赤字発行額に借替債分のうち、もともと建設国債として発行されていた分の借り替え額を足したものとなるはずです。2016年度予算では、「国債費」である43.7兆円を財政赤字として政府は主張していますが、本当の赤字国債発行額は、30.4兆円(国債費総額から債務償還費13.3兆円を引いた額)に年度中の借換債116.3兆円のうちの一般会計分の、またそのうちの元建設国債分の借り替え分を足した金額として計算すべきでしょう。

 その額がいくらになるのかは、ネット上に公表されている財務省の資料からは分かりません。借替債の内訳としては、復興債分しか表示されていなくて、それ以外のものの出自が建設国債なのか、赤字国債なのかが明らかにされていないためです。しかし、116.3兆円の何割かになるのではないかとの推定はできます。そしてその額が、債務償還費の13.3兆より大幅に大きければ、2016年度の財政赤字は、政府が主張する43.7兆円(一般会計の中の国債発行額)よりさらに相当大きな額となると言うことになります。

 このように考えると、一部の経済学者が主張するように、政府は赤字国債の発行額を実際より大きく見せようとしているのではなく、実際より小さく見せようとしているのだと言えます。そうだとすれば、2016年度の国の一般会計予算の歳出額は、定められた96.7兆円から債務償還費の13.3兆円を引き、それに今度は建設国債の借替額を足して得られる答えを総歳出額とし、同じく歳入額についても同様の計算をしたものとするべきです。そうすれば、赤字国債が実際にどの程度大きいかが、国民の目に見えるようになります。勿論、国債残高は、建設国債借り替え分がプラスマイナスされて、変わりません。

 こういう風に考えてくると、「債務償還費」という奇妙な予算科目は、この「本当の」赤字国債発行額をカモフラージュする撒き餌〈まきえ〉だとも言えます。そして、専門家を自称する人ほど、この罠にかかりやすいということになりますし、そうしておけば、櫓(やぐら)が陥(お)とされることはあっても、本丸は安全ということになります。これは、政府、財務省の巧妙な陽動作戦であるのではないかという疑惑を小塩丙九郎は持っています。そして、このような作戦を講ずることを要するほどに、政府、財務省は追い込まれているということでしょう。

 もうこの辺りで、若い皆さんの頭の中は混乱しているかもしれません。以上の話は、ゆっくり読めば何も難しいことを書いてはいません。頭がクラクラしてきたとすれば、それは、読者が初めて聞く用語や話が多いせいです。しかし、この国債の基本を知らなくては、国債の額が多い、少ない、財政破綻する、しないと言っても、意味を理解していない数字を自己流に振り回しているに過ぎないことになります。そして困ったことに、この国民の無理解を前提にして、政府官僚と経済学者が、国債や財政破綻についての議論を意味なくしてしまっています。そして、国民は思うのです。「財政破綻と騒ぐ人もいるけど、偉い人はみんな焦った風ではないから,きっと大丈夫なんだろう」と。

 しかし、国民が自分にとってとても重大な意味を持つ問題についての思考と判断を他人に委ねたときに、社会は崩壊し始めます。そういう歴史を、日本も持っています。「これだけ多額の赤字を毎年繰り返して、それがどうにかなるというのはどこかヘンなのではないか?」 そういう素朴な疑問は、たいていの場合的を射ているのです。見たくない現実を「ない」とか、「起こらない」と言ってくれる人を信じたくなるのは無理からぬところでもあるのですが、しかし、経済や政治は信心ではありません。手を合せて拝んでも、現実は変わりません。国債や財政破綻の議論を聞くときには緊張感が要る、ということを小塩丙九郎は言いたいのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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