小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔4〕国債の置かれた土壇場の風景

(6) 「国債は外国資本に依存しない」発言の無邪気

 国債の問題に、裏口から入ったようですが、国債についての議論、つまり、政府や多くの政治家や経済学者や経済専門家が行っている議論の表舞台を覗いてみましょう。国民が、国債の拡大は大問題であり、財政規律を取り戻すことは重要ではあるが、かといって、財政が破綻する可能性が高いというわけではないということを説明しようとして、政府や多くの政治家や、経済学者や、或いはマスコミが国民に告げている主張の根拠は、大きく次の3点にまとめられます。

 先ず1点目は、既に発行されている国債の大半(およそ95パーセント)は、国内資本で消化しており、海外資本に依存していないので、今後海外の高金利が日本の国債金利に大きな影響を与えることはなく、国債金利が低金利で発行し続けられれる以上、その利払い額が急に膨らんで財政が破綻するということはないというものです。そして第2点目は、国債は既に1,000兆円を超えているが、家計(一般国民の会計)の資産額は1,500兆円ある。或いは企業も近年預金額を増やしてきているので、まだしばらく国内資本だけで国債を買い続けることはできるということです。そして第3点目は、国には借金もあるが資産も600兆円以上もある。外貨準備金という資産も100兆円ほどある。いざとなったらそれらを処分すればいいというものです。

 これら3つの台詞が毎日のようにしてマスコミなどによって繰り返されるので、財政破綻しデフォルトする(国債の金利を払えなくなったり、満期になった国債を償還できなったりする)と主張する本がどれほど書店に積まれようが、あるいはインターネットのブログに激しく書かれようが、大半の国民は、「不安を感じないと言うとウソになるが、明日を真剣に心配するほどのことではないだろう」と考えています。より正確に言えば、“感じて”います。

 このうち、第3点目の主張にはまったく根拠がないということは、別のところ(ここ)で詳しく説明したところですので、第1、第2の点について、「本当にそうなんだろうか?」と言うことについて、詳しく見てみたいともいます。ここで、その結論を得るのに経済学者が使う難しい方程式を何本も並べることは避けたいと思います(もっともそうしろと言われても、小塩丙九郎にはできないことは正直に白状しておきます)。だから、以下の記述が正しそうか、そうでなさそうかは、専門知識がなくても、直ぐに分かると思います。

 第1点目の、日本の国債は海外資本への依存度が低いということについてです。官僚や経済学者が日本の国債の95パーセントは国内で消化されているというのは、長期国債に限っての話です。

 国債は償還期間によって2つの種類に分けられています。短期と長期です。短期とは満期が1年未満のことを言い、長期とは満期が1年以上であることを言います。通常の国債は長期とされますが、例えば国の歳入が年度内で平準化されて入って来ないために予算執行計画を実行するために不足が生じたときに、それを短期的に日銀が立て替えると言うようなことが原則でした。しかし、現在では最も多い金額の短期国債は、為替政策実施のために日本政府がアメリカ国債を買い、保有するための資金を得る目的で使われています。ただ日本政府は長期にわたってアメリカ国債を保有し続けていますので、短期国債を毎年借り換えることによって、実効上は長期国債のように運用しています。その都度金利は変わるのですが、今の超低金利状態だと1パーセント未満で安定しています。

 このうち額が大きいのは、償還期間が長くどんどんと積み重なっていく長期国債で、2015年度末には955兆円となっています。一方の短期国債の2015年度末に乃残高は120兆円で、両方合わせた国債の2015年度末の総残高は1,075兆円と1,000兆円を超えています(下のグラフを参照ください)。この1,075兆円と言う数字は、同じ年のGDP(499兆円)の2.2倍に相当します。なおグラフからは、1980年代末に国債を減らす努力が始められたものの、1991年のバブル崩壊以降一貫して、国の財政の国債依存度が高められてきたことがわかります。

出典:日銀『資金循環統計』データを素に作成。

 この短期国債については、海外資本への依存度が1990年代半ばより上昇し始め、特に2010年代に入ってからは爆発的に上昇し、2015年度末には49パーセントまで達しており、2016年度に短期国債の海外資本への依存度が5割を超えることは確実です(下のグラフを参照ください)。

出典:日銀『資金循環統計』データを素に作成。

 長期国債についての海外資本依存度は比較的一定しているのですが、長期と短期を合わせた国債の海外資本依存度は2000年代半ばより上昇を始め、2015年度末には1割を突破しています(10.2パーセント;110兆円)。これはもはや低いと言ってはおれない領域に入って来ていると判断すべきではないでしょうか?

 しかし、それでは海外資本の日本への流入が速まっているのかと言うと、それがそうではないのです。日本円(インフレ要素を取り除いた実質額)で表した海外資本の国債保有額は2000年代に入ってから急増しているのですが、海外資本が実際負担している金額、つまりドル(実質額)は、短期国債についても長期国債についても2011年から12年をピークに減少傾向にあるのです(下のグラフを参照ください)。特に、短期国債についての減少の勢いが大きいように見えます。

出典:財務省『貿易統計』データを素に、年平均円/ドル為替レートとアメリカ政府が公表する年平均消費者物価指数で調整して得た金額を素に作成。 出典:日銀『資金循環統計』データを素に、アメリカ政府の公表する消費者物価指数で実質ドル額に転換して作成。

 このことは、日本国債の海外資本依存度は急速に高まりつつあることに反するように、海外資本の日本国債への関心は薄れつつあることを示唆しています。このような一見矛盾したことが起こるのは、もちろん2013年以降に急激な円安状態を日本政府がつくりだしたからです。そして重要なことは、海外資本がこの円安状態を十分に活用して、つまりドルの支払い額を一定以上にして、国債をどんどんと買い集めると言うことを行わないで、海外資本のポートフォリオ(資産帳簿)においては日本国債のシェアを低め始めているということです。海外資本の総資産額(実質額)は毎年増加するのが一般的ですので、その中で日本国債の保有額が少し減り始めているということは、海外資本のポートフォリオの中での日本国債のシェアはそれ以上の速さで低下し始めたということです。

 日本国債の海外資本への依存度は高まり続けている、しかし海外資本は日本国債への関心度を下げつつあると言うのが、2010年代の日本国債を取り巻く環境です。「日本国債は海外資本に依存してはいないから、将来にわたってギリシャのような問題は起こりようがない」という政府官僚と経済学者の説明は、日本国債を取り巻く世界金融市場のあり様を的確に説明できているものではない、と小塩丙九郎は考えます。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
©一部転載の時は、「『小塩丙九郎の歴史・経済データバンク』より転載」と記載ください。



end of the page