小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔4〕国債の置かれた土壇場の風景

(7) 国民の資産はこれ以上国債を買えない

 次に、日本国民は十分に金持ちでGDPの3倍を超える資産をもっているから、GDPの2倍ほどの国債は十分に支えることができると言う主張についてです。

 家計の金融資産のうち最も多いのは銀行への預金であり、次に保険・年金基金への積立金です。アメリカと違って、国民は株式投資などの資産運用を積極的には行わないので、これら2種類の合計額は、家計の総資産額の8割を超えています。このように安全に運用される家計(一般国民世帯の会計)の金融資産の多くは、銀行や保険会社・年金基金を通じて国債購入資源に充てられてきました。

 そのような国債にとって重要な財源である家計の金融資産総額は、1990年度には国債総残高の6倍を超えていました。それが2015年度末には1.63倍にまで低下しています(下のグラフを参照ください)。家計の金融資産の大半を国債購入・保有にだけは充てられないので、家計の資産総額がこれほど1に近づいてくれば、これからあまり多くの国債購入を期待するは難しくなってきたということが感じられると思います。

出典:財日銀『資金循環統計」データを素にに作成。

 さらに問題であるのは、今後家計の金融資産の伸びが期待できないことです。家計の金融資産の8割を構成する預金等と保険・年金等の(実質)資産額の伸びは、2015年度に至り伸び率がほぼゼロにまで落ちています(下のグラフをご覧ください)。

出典:日本銀行『資金循環統計』データ他、グラフ中に記載のデータを素に作成。

 この直接の原因は、世帯の貯蓄率がゼロからマイナスに移行しつつあることがあります。1991年にバブルが崩壊する前までは、毎年の家計の貯蓄率は8から10パーセントほどあったのですが、それ以降急激に低下し、2007年のアジア新興国への輸出が増えて経済成長があった時に少し持ち直したものの、2010年代に入って再び急減し、2014年にはついにマイナスになってしまいました(下のグラフを参照ください)。富裕世帯が高齢化して、貯蓄を増やすのではなく、反対に取り崩すようになったからです。

出典:日本銀行『資金循環統計』データ他、グラフ中に記載のデータを素に作成。

 国債残高が増えても、家計の金融資産がそれと同じほどの速さで増えていれば、家計の国債購入能力は損なわれずに済むのですが、国債残高の増える勢いが弱まらない一方で、家計の金融資産総額は減り始めたのですから、家計の金融資産を基礎とした銀行や保険会社や年金基金の国債購入能力が急速に低下することは避けられません。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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