小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔4〕国債の置かれた土壇場の風景

(8) 企業の金融資産もこれ以上あてにできない

 家計の金融資産が減少傾向に転じた中で、金融資産を増やしているのが民間(非金融)企業です。2010年代に入って民間(非金融)企業の預金等資産総額は増え続けています。それでは、この傾向は今後も続くと期待していいのでしょうか?

出典:日銀『資金循環統計』データを素に作成。

 問題は、企業の預金能力の増大は何に起因しているのか、と言うことです。それは、企業の金融資産額の内容の変化を見て見るとわかります(下のグラフを参照ください)。1990年代からずっと、企業の預金等総額と企業間・貿易信用額の合計はほとんど変わっていません。この“企業間・貿易信用”とは、企業が他の企業と取引を行ったり、あるいは他国と貿易を行ったときに生まれた営業資産です。これは事業が拡大すれば増え、事業が縮小されれば減ります。預金等総額と企業間・貿易信用総額の合計が変わらず、預金等総額が増えているということは、企業が事業を縮小して事業に充てられない資産が、ひたすら銀行で預金として、しかも近年は極めて低金利預金として、凍結されているということです。

出典:日銀『資金循環統計』データを素に作成。

 企業の成長がまったくないわけではないのは、対外直接投資、つまり海外の工場建設やその他の投資が増えつつあることからわかります。しかし、その勢いも大きいとは言えず、結局は適切な投資先を見つけられないので国内の銀行で資金が遊んでいるという、まことにゆったりとした状況です。しかし、その状況は企業にとって安定したものとは言えません。なぜなら、企業の預金等資産総額は、日本円で表示すれば急速に増えているのですが、しかしそれを(インフレ要素を取り除いた)実質ドルに転換してみると、円/ドル為替レートが年々大きく減るので、毎年の総額は大きく変わるのですが、長期トレンドとしては減少傾向にあることが、下のグラフからわかります。

出典:日銀『資金循環統計』データを素に作成。実質ドルに転換するには、アメリカ政府が公表するアメリカの消費者物価指数を使用。

 つまり、企業の預金総額の増加は、その企業の将来の投資能力を保全し、あるいは強化することには繋がっていないのです。今後の企業発展には、対外直接投資を増やすことが最も効果的であると思えますが、しかしその財源は国内に残しておく限りにおいて、年々目減りしていくのです。日本企業がこのような資産運用を行っているということは、経営者が目先の財務管理に精いっぱいで、積極的な企業拡大を指向できないほどに消極的になっているのだ、と小塩丙九郎は理解しています。そしてその最大の理由は、日本企業が世界市場で競争できるための基礎となる先端的産業技術を開発できないでいることだ、と言うのが小塩丙九郎の説明です。

 このように、国債の購入財源拡大に当面寄与できる民間(非金融)企業の金融資産拡大は、長期的に続くであろうと言うことはとても想定できない状況にあります。むしろ、事業拡大がうまくいかなければ、さらに大幅な事業縮小に追い込まれ、そのときに必要となる人員整理を含む対策の財源に現在企業が持っている金融資産が消費されることになる公算が高い、と小塩丙九郎は推量しています。

 つまり、家計の金融資産は今後減る可能性が高く、民間企業の金融資産の伸びも近いうちに止まり、むしろ減額し始めることになるだとう予測されます。このことは、国債購入の最大の財源である家計と民間企業の資産によって、国債の発行残高を拡大することはほぼ限界に近付いているということを意味しています。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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