小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔5〕ハイパーインフレは避けられない

(13) 大経済破綻で日本はリセットされる(前編)、

 2020年代初頭から半ばにかけて、日本はハイパーインフレに見舞われます。その後の日本はどのような状況になっているのでしょうか・

 日本がハイパーインフレに襲われたのは、史上2回あります。1回は幕末です。幕府財政が大赤字状態を続け、現代の赤字国債発行と同様の働きをもつ貨幣改鋳による差益、出目〈でめ〉、により赤字を補てんして市場に通貨が溢れて高率インフレ状態に陥っていたところに、開国より生じた金・銀貨の交換比率の差がもたらした貨幣市場の大混乱により、日本はハイパーインフレに状態に陥りました(その説明はここ)。

 第2回目は、第2次大戦敗戦直後です。1930年代後半から戦中期にかけて、政府が赤字国債を大発行して日銀に買い取らせるという現代と同じ財政規律破壊を行いインフレが加速しつつあった中で、敗戦後に政府が戦中に契約した企業に対して巨額の未払い金を支払うために通貨を大発行したことをきっかけに、1949年にアメリカから派遣されてきた経済学者でもあるジョゼフ・ドッジが超緊縮財政を日本政府に強要して止めるまで、日本はハイパーインフレに陥っていました(その説明はここ)。

 その間の記憶をもつ高齢者の中には、今でも存命中の者は多いのですが、戦前に半ば強制的に買わされた国債の価値はなくなり、預金封鎖されている(郵便局や銀行に預けていた預貯金を引き出すことが大幅に制限されている)あいだに、金融資産価値はほぼ実質ゼロとなりました。そして一方、多額の国債残高を抱えていた政府の負債は実質的にゼロになり、そのことによって政府財政は“健全な状態”に戻ったのです。


太平洋戦争中に発行された戦時国債
〔画像出典:Wikipedia File:Japanese wartime national debt.jpg )〕

 いわば、ハイパーインフレが起こったことにより、国民の金融資産が強制的に政府財産につけ替えられたのです。ですから、ハイパーインフレはよく“インフレ税”と呼ばれることがあります。今日、金融資産の大半をもっているのは家計、つまり一般国民、ですから、国民の金融資産が実質的にゼロになると言うことです。預金残高はそのままですが、その実質的な価値はゼロに近く、保険や年金として積み立てたものの価値のうち国内金融資産として運用されていた部分についてはゼロに戻ります。そして、世代間の金融格差の大きな部分が自動的に解消されます(その詳しい説明はここ)。

 一方、企業の国内資産と国内負債はともにゼロに戻ります。近年企業の現金預金は増えてきていましたが、それでもネットでは、つまり資産額から負債額を差し引いた後に残る純資産額は、マイナスですから、財務内容は大改善されることになります。

 しかし、大経済破綻の元の引き金を引くこととなった輸出産業を崩壊させた原因が取り払われたわけではありません。つまり、先進国に留まるために必要な先端産業技術開発力は喪失したままですから、先端産業設備に置き換えることができなくて老朽化し、資産価値を大きく失った産業設備で、先進国とではなく、あるいは産業技術競争で負けたアジア新興国とでもなく、それ以下の中進国との世界市場での価格競争に追い込まれることになります。

 この競争で生き残るためには、労働者の賃金(インフレ要素を取り除いた実質賃金)を大きく下げなくてはなりません。日本の製造業の労働コスト(時間当たり労働賃金)は、近年急速に先進国水準から近年急速に離脱しつつあることは、別のところ(ここ)で指摘したとおりです。また、労働生産性は1990年代半ばより、既に3分の1が世界市場の観点からは落ちていることは別のところ(ここ)で説明したとおりですが、これらがさらに低下を続けると言うことです。

 これらのことは、日本政府の財政を“健全化”し、企業の財務を改善することが、日本が急速に先進国から脱落し、さらに産業国としての日本の順位を下げていくという傾向から離脱できるきっかけをつかむ契機に繋がるわけではないということを示しています。

 また、日本の大経済破綻を呼び起こした最大の原因である日本の社会・経済体制、つまり官僚主導で業界と連携した計画経済体制(国家社会主義体制と呼んでも過言ではないと小塩丙九郎は考えています)もそのまま残されることになるでしょう。要するところ、日本の第3の大経済破綻は、そのままでは日本の社会・経済体制を改革して、近代資本主義国に生まれ変わると言うことには繋がらない可能性が高いのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
©一部転載の時は、「『小塩丙九郎の歴史・経済データバンク』より転載」と記載ください。



end of the page