小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔5〕ハイパーインフレは避けられない

(14) 大経済破綻で日本はリセットされる(後編)

 保険には、インフレになると払い戻し金が増えるタイプのものとそうでないものの2つのタイプがあります。特に貯蓄機能を併せ持ったものにはインフレに抵抗する力がまったくないので、ハイパーインフレは保険保有者を激しく襲うこととなります。インフレ対応になっているものは、インフレ率が穏やかである限りにおいては、自動的に払い戻し金が増えるので、保険保有者に大きな損害は出ません。しかし、ハイパーインフレになると、そう言って安心してはおれません。

 保険会社の資産構成(2015年度末)は、国債が44.3パーセント、国債以外の債務証券が13.2パーセント、株式等が8.4パーセント、貸出が9.1パーセントと国内資本が大半で、外国の証券投資は16.0パーセントしかありません(下のグラフを参照ください)。

出典:日本銀行『資金循環統計』データを素に作成。

 ハイパーインフレになると、保険会社の資産は大きく棄損〈きそん〉されると言うことです。保険会社の資産が大きく傷つくと、保険保有者への払い戻し金の財源がおおいに不足することとなる可能性が高く、そうなった場合には、特別の措置がとられない限りにおいて、企業倒産が危ぶまれる可能性も出てきます。そうなれば、インフレ対応するはずであった保険をもっている人にも、インフレ率に見合った額の払い戻し金は支払われなくなります。

 特別の措置と言うのは、通常の保険契約によらない特段の支払い金の減額を特別法をつくって認めてしまうと言うようなことです。いずれにしても、保険会社の資産の多くがなくなることになるのですから、保険保有者への激甚な影響をまぬかれることはできないでしょう。

 年金基金は、国(厚生労働省)が(年金積立管理運用独立行政法人〈GPIF;Government Pension Investment Fund〉を通じて)管理する公的年金基金(厚生年金基金と国民年金基金。それぞれの規模は下のグラフ〈ここ〉を参照ください〉)と、その他民間で運営する企業年金基金で構成されています。これらは何れも、近年外国資本への依存度を高めています。

 国民年金基金については2017年度末現在の運用資産額は135兆円ありますが、そのうち外国資本によるものが42乃至62パーセントあります。幅があるのは、後者には円ヘッジされた外国債券が含まれているからで、GPIFの第3期中期計画による外国資本への依存度の上限は52パーセントですから、円ヘッジされた外国債券は国内債券扱いされているのだと推量されます(“円ヘッジ”とは、将来の円/ドル為替レートを予約して、為替レートの変動リスクをなくそうとすしたものです。これは急激な円安が起こった場合には、ほとんど実質資産の維持効力がありません)。2008年に第1期中期計画が策定されたときの外国資産への依存度は17パーセントにすぎませんでしたから、7年間の間に外国資本への依存度が2.5倍から3.6倍にまで増え、実質的な依存度は5割を超えています(下のグラフを参照ください)。

出典:年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)のHP掲載データを素に作成。

 民間の年金基金の国内資本への依存度は、日本銀行の統計によれば、国債資本と明確に区分できるもの(預金・貸出、国債、その他債務証券)は総資産の4割程度ですので、おおよそ内外資本の割合は4割と5割の間ではないかと推測しています(下のグラフを参照ください)。その根拠としているのは、企業年金連合会が公表している企業年金基金のうち外国資本によるものが4割程度であるからです(さらに下のグラフを参照ください。おおよそと言うのは、公表されている数値が正確に内外資本には区分されていないので、詳細は分からないからです)。

出典:日本銀行『資金循環統計』データを素に作成。

出典:企業年金連合会『年金資産の運用状況(資産運用実態調査より)』掲載データを素に作成。その他の中には、企業毎の自主運用資金が含まれています。

 高齢者年金は既に積立制度ではなく、現役の労働者の年金支払いにその財源を大きく依存する賦課方式となっています。公的年金制度はかつては物価スライド方式と言って、物価が上がれば年金支給額も自動的に上昇する(スライドする)仕組みになっていましたが、年金会計が次第に厳しくなってきたので現在では物価上昇率より低い割合でしか年金支給額は増えない仕組みになっています(2005年度より導入された“マクロ経済スライド”により、現行ではインフレ率より0.9パーセントポイント引くことになっています)。

 しかしインフレ率が穏やかなものではなく、超高率となった場合にはどうなるかと言うことはわかりません。今の年金制度では、「積立金運用による運用収益と積立金の取り崩しにより、保険料水準を固定することと給付をできるだけ高い水準に保つという考え方の両立を図りながら、年金財政の安定化に寄与する」(年金積立管理運用独立法人〈GPIF〉の説明)」とされているのですが、その運用益と取り崩し可能金の両方が半減することになるのです(運用益については、長期的には外国債券の運用利益率は国内債券の運用利益率より高く、外国株式と国内株式の運用利益率は大きく変わらないので、運用益は半減までしない可能性が高いかも知れません〈下のグラフを参照ください〉)。

出典:年金積立管理運用独立法人(GPIF)のHPでの掲載データを素に作成。“3年間移動平均”とは、当該年度及び前年度と前々年度についての3つの値を平均した値です。

 そうすれば、年金会計はますます現役労働者の払い込み金に頼らざるを得なくなるわけですから、現役労働者の負担は大きく増えざるを得ないので、年金制度の抜本的改革は避けられなくなるでしょう。高齢者の金融資産がゼロに大きく近づき、高齢者と若者の間の資産格差はほとんどなくなるのですが、今度は大きくはない所得しか得ることができない若者が、小(金融)資産で所得のとても小さな高齢者を養うと言う必要性がさらに強まることになります。このことは、年金制度を“手直しする”程度の改革で解決できる範囲を大きく超えていると思います(それついての小塩丙九郎の対案は、別の章〈ここ〉で提案しています)。。

 アメリカが大恐慌で発生した大量の貧困者を救済する必要にかられて社会保障法を制定して(1935年)、その一環として老齢者年金制度が創設されたのですが、高齢者割合が上昇する30年後には制度が財政的に破綻することはわかっていました。しかし、時の大統領(フランクリン・ルーズヴェルト)はそのことを公表しないままに議会での採決を強行しています(その詳しい説明はここ)。日本も同じように年金制度が長期的にサステナブルではない(維持できない)ことを承知なままに制度を運用し続け、赤字を糊塗するために赤字国債を長年にわたって(1994年度以降)発行し続けています。そうしたことが永遠に続けられるはずがないことは、誰にもわかるはずのことですが、今でも官僚や多くの経済学者は、破綻は起こらないと主張し続けています。

 2015年度末の公的年金基金残高は、厚生年金についてはおよそ4年分、国民年金についてはおよそ3年分の支払い総額に匹敵していますが、この基金残高が今後大きく増える見込みはありません(下のグラフを参照ください)。そういった中でハイパーインフレになると国内資本分が大きく棄損するので、残った実質残高は厚生年金についてはおよそ2年分、国民年期についてはおよそ1年半分と言うことになります。その後は運用益を産むのは困難になる一方で、高齢者人口が増え続けるので(さらに下のグラフを参照ください)、現行通りの支払いを続ければ取り崩し額が大きくなる一方であるので、基金は早晩底を突くことになると思われます。

出典:厚生労働省著『年金積立運用報告書』掲載データを素に作成。

出典:国立社会保障・人口問題研究所による日本の将来推計人口(2012年1月推計)のデータを素に作成。

 しかし、既に明らかにしたようにハイパーインフレが2020年代前半に起こることは避けられず、年金制度は大改革を余儀なくされるのです。そして今度こそ、ルーズヴェルト大統領や日本の厚生労働省官僚たちのかつての間違いを繰り返さないよう、今から十分に時間をかけて若い皆さんが将来世代に対しても責任をもてる年金制度を検討しておくことが必要だ、と小塩丙九郎は考えるのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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