小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔2〕計画経済主義者がこだわる円安政策

(4) 円安政策は日本の寿命を縮める

 日本の官僚と経済学者が円安政策をとり始めたのは、日本が各国通貨をドルを基軸通貨として固定する、つまり各国通貨とドルとの為替レートを固定する、というブレトンウッズ体制に参加した(その説明はここ)時に既に始まり、そして1971年末までは固定化されていました(その説明はここ)。それ以降、世界の先進国は為替市場の自由化に移行したのですが、日本だけが名目為替レートにこだわり、それを操作したいと考える為替政策を続け、しかもそれが国の経済政策の根幹のであるとしています。

 そのことは、まったく不当なことで、その政策が重要だと考えることこそが、日本の経済停滞を長らしめている元凶だと小塩丙九郎は考えています。ここでそのことを改めて証明したいと思います。

 先ずは、1990年代末から2013年まで円高が進行したと言う見かたについてです。それは日本とアメリカの物価上昇の速さが随分と違う、つまり円とドルとの価値の減り方の速さが大きく違うと言うことを無視したものだと言うことを、何度も指摘してきました。改めて、日本の官僚と多くの経済学者がこだわる名目の円/ドル為替レートと、日米両国の物価変動の違いを考慮した実質円/ドル為替レートの違いを表した下のグラフを見てください。

出典: 財務省貿易統計の対アメリカの輸出入額を素に、1985年基準実質ドルに変換した。実質円/ドル為替レートについては、今までと同様の方法で算出した。

 1985年にプラザ合意があり、円/ドル為替レートは大きく円高方向に変動したのですが、それ以降長期的には円高が進んだと日本の官僚と経済学者が主張することは、このグラフでも表されています。しかし、実質円/ドル為替レート変動の長期傾向は、明らかに一貫した円安です。2007年から2012年までの間は確かに円高に動いているのですが、それは1987年以降長期的に円安であったものの一部を回復したにすぎません。仮に円高が輸出を阻害すると言う官僚や経済学者の主張が正しかったとしても、それは。2007年から2012年までの5年間に限ったことであり、日本の四半世紀にわたる長期経済停滞の様子を説明できるものではありません。

 そのことは、円/ドル為替レートと輸出額の推移を同じグラフに表して見るとよくわかります。ここで日本の輸出額は、日本の物価変動で調整した実質円表示の輸出額と、円表示の輸出額をドルに転換した後さらにアメリカの物価変動で調整した実質ドル表示の輸出額の2つの値を同時に掲載しています(下のグラフを参照ください)。

出典:財務省『貿易統計』掲載データを素に作成。日本の物価は統計局が公表している消費者物価指数を、アメリカの物価はアメリカ政府が公表しているアメリカの消費者物価指数を使用している。

 このグラフを見ると、長期的には実質円表示の日本の輸出額(赤の実線線で表示)と円/ドル為替レート(灰色点線で表示)とは何の関係もないように見えます。しかし一方、円/ドル為替レートと実質ドル表示の日本の輸出額(青の実線で表示)は、大体において重なっているように見えます。つまり、円高が進行している時に輸出額は増え、円安が進行しているときには輸出額が減っているように見えるのです。これは日本の官僚や経済学者の言い方をまねれば、「円高が進めば日本の輸出は増える」と言うことになります。

 しかしもちろん、小塩丙九郎はその様には解釈しません。日本の輸出額が増えると言うことは、日本の経済力が強化されつつあるということです。そしてより強い経済体制をもった国の通貨は、より高く国際市場で評価されることになるのです。つまり、輸出が増える国の通貨の為替レートはより高い方向に評価され直されるのです。日本について言えば、日本の輸出額が増えれば、円高になるのです。そしてそれは、日本の国力が正しく世界市場で評価されていると言う誇らしいことだと考えます。

 円高は、日本人が誇るべきことであって、嘆くべきことではありません。円高になると、外国が生産する食料、原材料、エネルギー資源、工業製品のすべてをより多く買えることになるのであり、外国旅行をより気易く楽しめるになり、外国留学はより容易になります。この何れについても、日本人が残念に思わなければならないことは一つもありません。

 円安にしても輸出が増えるわけではないことは、今まで丁寧に説明してきました。円安政策へのこだわりは、日本の寿命を縮めることにしか貢献しません。

 それではなぜ、日本の官僚や多くの経済学者は円安政策にこだわるのでしょうか? 以下は、小塩丙九郎の憶測です。具体の証拠をもっているわけではありません。しかし、そう考えることが合理的であることの状況証拠はふんだんにこのデータバンクのあちこちに提示しています。

 日本の官僚も多くの経済学者も、戦前の東京帝国大学(法科大学、後に経済学部として独立)設立以来、一貫した計画経済主義者なのであり(戦前の東京帝大経済学部の学者たちのあり様についてはここで紹介しています)、政府官僚が管理することができると考える名目為替レートが重要であると主張し続けなければ、自分たちの存在意義を示せないと考えているのです。そしてそのことが何にもまして重要だ、と考えているのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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