小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔3〕日本経済全体(経常収支)が赤字になる

(2) 貿易収支は悪化し続けている

 日本にとって最も重要な指標の一つは、経常収支です。経常収支とは、大まかに言って貿易収支とサービ収支と所得収支の合計額であることは別のところ(ここ)で説明したところです。そこでまず、貿易収支の赤字が拡大しつつあるということを明らかにしたいと思います。しかしこの主張は、官僚や多くの経済学者のものには反しています。どちらが、より現実に近いのかは、以下の説明を読んだ後若い皆さん自身で判断してください。

 日本の官僚や多くの経済学者たちが見ている貿易収支についての数字をグラフに表したのが下の図です。総額とともに、貿易品目毎の収支も表して、貿易集の経緯と今後をより理解しやすくできるように配慮してあります。円でその額が表示してあります。但し、小塩丙九郎は、過去の金額は現在に至るまでの間のインフレ率で調整した実質額、下のグラフの場合は2015年価格、で常に調整しています。1988年から2015年までに消費者物価は15.6パーセント上昇していますので、無視できる小さな値ではありません。

出典:財務省『貿易統計』掲載データを素に作成。

 政府官僚と多くの経済学者は、この物価上昇率で修正して実質価額で議論すると言うことが容易にはできません。なぜなら、政府の仕組みでは、貿易収支を実質額で表示しようと思うと、価額は消費者物価指数ではなくデフレーターと言う別に政府が用意した数値を使わければならないのですが、その数値が現実離れしていて、国民に説明しようとしても説得力をもたないからです。例えば1988年から2015年までの間に消費者物価は16.5パーセント上昇しているのですが、デフレーターは、その同じ間に物価は6.9パーセントも下がっている、つまり現在もまだデフレが進行中だと示しているからです。

 このデフレーターがどんなもので、それがいかに現実離れしたものであるのかは、別のところ(ここ)で詳しく説明したとおりです(グラフはここに示しています)。第1に、実質額を公式に計算できる指標がでたらめであること、そして第2に、日本の官僚や経済学者には元々実質額と言う観念が希薄なこと、から貿易収支についても名目額(物価修正しない帳簿上の金額)で議論するのみで、実質額で議論する習慣がありません。しかし小塩丙九郎は、それは科学的な態度ではないと考えるので、経年変化を見る場合には、名目額ではなく実質額で評価することを原則としています。

 円表示で表された貿易収支(その長期トレンドは太い赤線で示しています)は、2000年代に入って悪化し始め、2011年にはついに赤字に陥ってしまったのですが、2015年には随分と改善して小康状態を取り戻したように見えます。それは、第1に工業製品についての貿易収支が減少から横ばいに変わったこと、そして原料品・燃料についての貿易収支も減少傾向から直近では改善の方向に変化したためです。政府官僚や多くの経済学者の説明は、工業製品の貿易収支の悪化が止まったのは円安効果で輸出が増えたためであり、原料品・燃料についての収支が改善されたのは、アメリカでシェール石油の開発が進んだことをきっかけとして石油と天然ガスの国際相場が大幅に下落したためだということです。

 何れにしても、貿易収支の急速な悪化は止まったのだから、しばらくの間は息をつける、その間に何らかの財政を拡大するなどして景気回復策を講ずればいいと言う、なにやらのんびりとしたものになっています。一時、日本経済の破綻とか経常収支の赤字転落とかを題材にした図書が店頭にたくさん並んだものですが、今ではその勢いも随分と弱くなりました。

 しかし、貿易収支の様子を実質ドル表示(名目円ベースの額をドルに転換して、さらにアメリカの消費者物価指数で割り戻して2015年価格に置き換えたもの)でグラフに描いて見ると(下のグラフを参照ください)、様子はまことに様変わりしたものとなります。

出典:財務省『貿易統計』掲載データを素に作成。

 工業製品についての貿易収支は、2008年をピークとして急速に減少し続けています(2009年のリーマンショックをきっかけとした隻会経済の後退の影響は、1年で克服されているので、無視できます)。一方、原料品・燃料についての貿易収支は2006年まで急速に悪化した後、石油・天然ガスやその他原料費の国際相場の乱高下によって大きく変動していますが、おおよそ2千億ドルの赤字水準で推移しています。

 食料品を含むその他の貿易収支は赤字ですが、額はわずかであり、しかもおおよそ安定しています。そうすると、工業製品についての貿易収支は急速に悪化を続け、原料品・燃料についての貿易収支の赤字額が比較的安定している、と言っても国際相場の乱高下の影響は残るのですが、ことから、それらを合わせた貿易収支は2016年以降も急速に悪化し続けざるを得ないと見込めるのです(グラフの中の赤い太線が長期トレンドを示しています)。

 2012年以降の、円表示の貿易収支が小康状態に入ったとの観測は、円安で演出された見かけのものであって、日本の貿易収支の実態とはかけ離れたものだ、と言うことに気付かなければなりません。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
©一部転載の時は、「『小塩丙九郎の歴史・経済データバンク』より転載」と記載ください。



end of the page