〔1〕輸出産業の崩壊が始まった
(1) 経済学者が無視する基本指標(前篇)
経済学者が無視する基本指標は、まずはアメリカの消費者物価指数です。日本とアメリカでは、消費者物価指数の変化の大きさがまるで違います。日本では、近年ほとんど変わりませんが、アメリカでは長い間年2から3パーセント上昇し続けています。
例えば、1988年の消費者物価指数を100とすると、2016年の日本の消費者物価指数は115ですが、アメリカのそれは203です(下のグラフを参照ください)。つまりその間、日本の消費者物価が15パーセントしか上がっていないのに、アメリカのそれは2倍になっているということです。これは、この間日本の円の価値が大きく変わっていないのに、ドルの価値は半分になっているということを示しています。
出典:小塩丙九郎が作成。
このことは、経済学者が無視する2つ目の重要な指標が存在することを意味しています。1988年の(年平均)円/ドル為替レートは1ドル=128円でした。それが2016年には1ドル=109円になっています。つまり、この間19円だけ円高になっています。そう経済学者は、言うのです。
しかし、その間にアメリカのドルの値打ちが半分になっていることを思い出してください。価値が減らないでいる円と、価値が半分になってしまったドルの交換比率をまったく同等に扱うのはヘンだということに、若い皆さんは直ぐ気づくでしょう。そこで、その間の日本とアメリカの物価変動の違いを191円となります(上のグラフを参照ください)。これを実質円/ドル為替レートと言いますが、これが1988年の1ドル=128円と比べられる本当の(実質的な)円/ドル為替レートです。
つまり、1988年から2015年の間に円/ドル為替レートは、63円も円安になっているのです。これは円高が急激に進んだ原因となった1985年のプラザ合意があった前の為替レートにおおよそ匹敵する水準です。つまり、1985年のプラザ合意によって超円高になったのですが(
このグラフを参照ください)、1987年から現在の間に円/ドル為替レートは元の水準に戻っているのです。もし、プラザ合意前の円/ドル為替レートを超円安だと言うのであれば、2016年は超円安の状態です。
さらに言うと、経済学者が円高が進んでいたと主張する2007年から2012年までに至る間、つまり1995年から2007年までの間、1988年を基準とした円/ドル為替レートは、1ドル=107円から1ドル=184円へと大幅な円安が進んでいました。2007年から2012年までの円高は、その大幅円安の一部を取り戻したにすぎません。そして2013年以降の政府の円安政策によって、円/ドル為替レートは、再び円安傾向に転じ、元々大幅に円安であった状況をさらに円安にしてしまい、その結果が、1988年の1ドル=128円を2016年の1ドル=191円まで超円安にしたということです。
2017年1月4日初アップ 2017年2月21日最新更新(2016年データを追加)
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