小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔1〕輸出産業の崩壊が始まった

(2) 経済学者が無視する基本指標(後篇)

 アメリカで様々な経済指標の時系列が表示されるときには、名目、つまりその時のドルの価値で表された、値と、物価上昇の影響を取り除いた実質の価値を表示した値が並列して示されることがほとんどです。日本の政府統計のように、GDPを除いて経済指標は名目値だけで表されると言うことはありません(下の図を参照ください)。そして、実質値を計算する時の物価を表す値としては、アメリカ政府(担当は労働省)が公表する年平均消費者物価指数です。アメリカ政府のホームページにアクセスすれば、1913年から最新月までの、つまり1世紀以上にわたる、毎月の月平均消費者物価指数と年平均消費者物価指数を簡単に知ることができます。

アメリカの時系列データ表示の例
(上の表〈エクセル〉が同じページに掲載されている)

 一方、日本では名目のGDPの他に、物価上昇要因を取り除いた実質GDPが公表されていますが、それはアメリカと違って、消費者物価指数ではくデフレーターと言う別の数値を使って計算されています。政府の主張は、物価には消費者物価以外に卸売物価や輸出入物価と言うものがあるので、それらを総合的に勘案した物価指数が必要なのであり、それがデフレーターだと言うのです。

 しかし問題は、1993年以降、日本のデフレーターは消費者物価指数とどんどんと乖離〈かいり〉の幅を広めており、1988年の物価を100とすると、消費者物価指数での2015年の物価は116となっているのですが、デフレーターでの物価は93にしかならないのです(このグラフを参照ください)。つまり、消費者物価指数とデフレーターが示す物価には2割ほどもの差があるのです。この結果、政府が公表する実質GDPは年々増加し続けています。

 日本では、随分前からデフレーターを使って計算する実質GDPの値が政府官僚や政治家の口から聞かれなくなりました。彼ら自身が、その数値の意味が失われてしまっていることを知っているからなのですが、しかし、OECDなどの国際機関には日本の実質GDPはデフレーターを使って計算した値が報告されており、それによって国際比較が行われています。日本の実情を知る各国首脳や経済専門家はそうして計算されている実質GDPの値を無視していますが、しかし、日本の実情に明るくない外国の経済学の学生などは、日本のGDPは増え続けているはずだと考えているかもしれません。このような不都合があることに、日本の経済学者も経済専門家も、そしてマスコミも、目をつぶり続けています。

 ですから、このデータバンクでは、日本の経済にかかる指標や数値を表すときには、基本的に日本とアメリカの消費者物価の変動を勘案した実質値を使っています。そして、円/ドル為替レートについては、名目為替レートではなく、実質為替レートを使って日本の様々な経済指標を表すことを基本としています。そうすることによって初めて、日本の経済実態の変化を世界的視野から客観的に見ることができる、と考えています。

 このことは、日本の経済学者が説明する、日本とアメリカの物価変動の大きな違いを無視した日本の実体経済の変化の様子は現実を正しく表したものではない、と言うことを示唆しています。日本とアメリカの物価変動の幅が大きくなければ、それほど大きな間違いは生じないのですが、日本とアメリカの物価変動が倍ほども違うと言うことになると、その誤りは致命的なものになってしまわざるを得ません。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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