小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔1〕輸出産業の崩壊が始まった

(3) 貿易収支と経常収支

 一時、日本の経常収支は赤字になってしまいそうだと騒がれたことがありますが、近頃その声は随分と小さくなったように思えます。

 経常収支とは、日本と外国との様々なお金のやり取りの合計額のことです。経常収支が赤字とは、その年に外国に支払ったお金の総額が外国から受け取ったお金の総額を下回ったことを意味します。ですから、経常収支が赤字の年が何年も続くと、日本は次第に貧乏になっていくということになるので、経常収支が黒字か赤字かと言うことについては多くの人が強い関心をもっているというわけです。

 経常収支と言う言葉は官僚と経済学者でつくった随分と難しい響きをもったものですが、経常収支は大まかに言って貿易収支、サービス収支、所得収支の3つの収支の合計額です。その他にもあるのですが、大きな額ではないし、日本の経済状態を考える上で重要ではないので、今はわかりやすいことを第1として、以上の3つの収支だけを対象として考えたいと思います。

 貿易収支とは、文字通り貿易に関するもので、輸出額から輸入額を差し引いた金額です。サービス収支は、輸出入額の統計には表れないモノではないサービスを外国に提供したときに受け取った金額から外国から受け取ったサービスの購入のために支払った金額を差し引いた金額です。特許料と言うような知的財産のやり取りもありますが、一番大きな額のものは観光です。日本人が大勢外国に行って旅行代や土産物代を支払った額を、外国人が日本にやって来て落とした額から引いたものが観光に係るサービス収支と言うことになります。

 最後に、所得収支とは、日本の企業や日本人が外国に投資したり、あるいは外国の金融機関に預金して、その果実としての配当金や金利を受け取った総額から、外国人や外国企業が日本に投資したり、或いは日本の金融機関に預金した果実として受け取る配当金や金利の合計額を差し引いたもののことです。貿易収支は、その年に国が生産する所得であり、所得収支はその国がそれまでに外国で蓄積した財産が産む所得であると言うように理解すればいいかと思います。そして新興国は貿易収支に主に頼らざるを得ないのに対して、長年豊かであった国は、所得収支で稼ぐと言うような傾向があります。

 さて、近年、日本の官僚や経済学者は、日本の経常収支が近いうちに赤字になる見通しはなく、だから日本の経済は簡単にダメになることはないと主張しています。さらには、日本政府に招かれた外国人経済学者の中にも、経常収支が近いうちに赤字になると大声で警告した人はいません。それで日本国民の中には大きな危機感をもつ者はわずかで、書店の棚に何冊かの危機を煽る図書が並んでいるのですが、それを真剣に読もうとする人はほとんどいないと言うのが、近年の日本の状況でしょう。

 しかし、本当にそうなのかと言うことであり、そして小塩丙九郎の見解は、まったくそうではありません。なぜなら、日本の輸出産業は崩壊し始めてしまったから、というのがその最大の理由です。『〔1〕輸出産業の崩壊』ではそのことを具体に紹介しようとしているのですが、これまでの3項は、その議論を始める前の土俵の整理といったものです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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