小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

1-日本の若者が今置かれている状況


〔5〕 問題は、発展の基盤−自由−がないこと

(1) アメリカの経済発展と日本の経済後退

 アメリカは、世界で唯一1980年代後半以降経済成長を安定的に続けている国です。ある国の経済規模を表す指標には一般にGDP(国民総生産)が使われますが、毎年の統計をそのまま示すこととすると、その間インフレが進んでいたりすると貨幣価値が変わってしまって、実質的にどの程度の経済の伸びがあったのかわかりません。そこでGDPの推移を見るには、その通貨の価値をその国の物価上昇率で割り戻して、過去の数値を現在価値に修正した上でグラフを描くのが普通です。そこで、日本とアメリカのインフレ要素を除いた実質的なGDP、“実質GDP”と言います、の変遷を1970年代以降について描いてみたのが下のグラフです。

トップ10%
出典:下記データを素に算出。
   GDP:日本については内閣府の『国民経済計算』統計、アメリカについてはアメリカ統計局のホームページ掲載データ。
   実質ドル値:年平均円/ドル為替レートとアメリカ消費者物価指数で修正。

 このグラフから、アメリカのGDPが長年安定して伸びていることが確認できます。日本のGDPがアメリカに最も迫った1995年以降について言えば、リーマンショックの落ち込みを含んでも、年率およそ2パーセント成長し続けています。

 一方の日本について、このグラフを見た日本の若い皆さんは、随分と驚くかもしれません。このグラフに現れている数字は、OECDに登録されている名目円表示の日本のGDP(内閣府が国内で公表しているものと変わりません)を各年毎にその年の円/ドル為替レートでドルに転換して、それをアメリカの物価指数(消費者物価指数)で割り戻して2015年を基準とする実質ドルに調整した値です。なお、ドル表示された日本のGDPは、円/ドル為替レートが短期的に激しく変動すると実力以上に大きな変動を見せるので、5年間以上の比較的長期での変化を見れば、おおよその日本の経済の実力の推移を評価することができますので、その点は留意してグラフを観察してください。

 日本では、1991年のバブル崩壊以降、日本の経済は停滞を続けていると言われていますが、しかしその間日本の通貨である円の価値は減少し続けているので、世界市場から見れば、日本のGDPは1995年の8.48兆ドルをピークとして、減り続けているのです。1995年と2015年の間の平均伸び率を計算すると、マイナス3.2パーセントとなります(もっとも1995年は前後の年に比べて円高の年で、反対に2015年は前後の年に比べると円安だったので、以上の数値は長期傾向地として挙げるには少し過大評価だとは思います)。

 若い皆さんは、最近でこそ円安になったが、2013年までは長期的に円高が続いていたはずだと言って、以上のグラフを信用しないかもしれません。しかし、政府官僚や多くの経済学者が言う円高とは、その間アメリカでは安定的にインフレが続いていて、ドルの価値が毎年2パーセントずつ減少しているということを無視した発言で、日本とアメリカの物価の動向の違いを計算に入れて、実質的な円/ドル為替レートの推移を見れば、長期的に円安が続いていました(下のグラフを参照してください)。一方の国の経済が成長し続け、一方の国の経済は停滞しているのだから当然のことです。ちなみに、実質的な円/ドル為替レートは、2016年現在、1985年に大幅に円高にしたプラザ合以前に近づく歴史的円安状態になっています。

トップ10%
出典:下記データを素に算出。
    円/ドル為替レート: Sauder School of Business, The University of British Columbia検索エンジン月平均データ
    アメリカの物価: アメリカ労働省の消費者物価指数
    日本の物価: 統計局の消費者物価指数

 1995年には、アメリカのGDPと日本のGDPの差は、日本がアメリカのおよそ7割(71.1パーセント)にまで達するというほどにまで小さくなっていました。それが2015年には、日本のGDPはアメリカののGDPの4分の1(24.3パーセント)にまで差が大きく開いているのです。1990年代半ばまでは、日米関係とは、経済2大国の外交、同盟関係であったのですが、今は1951年に日米安保条約が結ばれたときのように、世界1の超大国と、中規模の成長力のない国の間の関係に限りなく近くなっている、と言っても間違ってはいないと思います。

 GDPはこれほど収縮した結果、日本の労働者の給与は、円で表せば近年あまり変わっていないように見えますが、(インフレ要素を取り除いた実質)ドルで表せば、2010年代半ばには1990年代半ばの3分の2にまで減っています(下のグラフを参照ください。

所定内給与
出典:厚生労働省『賃金構造基本統計調査』データを素に作成。    

 四半世紀にわたってある国は安定した経済成長を続け、そしてもう一つの国は経済停滞、或いは経済後退を続けるということがあると、その両国間の関係は、本質的にまったく違ったものとなってしまいます。政府官僚、政治家や経済学者たちは未だに2経済大国間の同盟関係と日米関係を呼び続けていますが、そのような実態は世界市場という観点に立つとまったく見えません。

 何度もの繰り返しになりますが、アメリカは安定して経済成長をする国で、日本は経済的に停滞、さらに後退する国である、という正しい認識を持つことから、若者が生きがいをもてる日本の未来のつくり方ということを考えなくてはならないということを強調しておきたいと思います。  

2017年1月4日初アップ 2017年4月13日最新更新(賃金データの更新)
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