小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔3〕日本経済全体(経常収支)が赤字になる

(1) 日本の産業空洞化は加速している

 日本の官僚や経済学者たちは、日本の産業が空洞化していることが、日本の経済が停滞せざるを得ない原因だ、と繰り返し説明しています。それでは、産業の空洞化とは、一体どのようなことを言うのでしょうか? それは、日本の企業が国内に工場をつくらずに海外につくる、或いは国内の工場を閉めて海外に持っていくことだと言われています。その勢いを表す統計指標として、対外直接投資額と言うのがあります。これは工場建設を目的とした以外にも、短期的な投機目的ではなく長期的なスタンスで海外に投資することをすべて含んだ国内から国外への資金の移動総量のことです。その金額が190年代半ばから次第に増えている(下のグラフの赤い太線で示した長期トレンドを参照ください)ことが、日本の産業空洞化を表す指標であると理解されています。

出典:UNCTAD(国連貿易開発会議)の統計データを素に作成。

 しかし、本当は、それは説明の半分であるにすぎません。なぜなら、日本の対外直接投資額のGDPに対する比率は、2010年代初頭まで他の先進国に比べて決して大きなものではなかったからです(上のグラフを参照ください)。だから、日本の対外直接投資が多いことが、直ちに日本の産業が空洞化していることにはならないのです。

 多くの先進国では、国内企業が外国に投資すると同時に、国外企業が国内に投資しています(その総額を対内直接投資額と言います)。そしてもし、国外企業が国内に投資する額の方が国内企業が国外に投資する額より多かったら、産業は空洞化せず、むしろ活発化するはずです。そして実際のところ、多くの先進国で、対内投資額が対外投資額を上回ると言うことは稀ですが、それでも相当な額の対内投資がされています(下のグラフを参照ください。なお、上のグラフと比較できるように、縦軸のスケールは揃えて表示しています)。しかし、日本に限って言うと、1980年代半ば以降現在に至るまで、対内投資額が実質的にほぼゼロと言う状況が続いています(そのトレンドはグラフの赤い太線で示しています)。

出典:UNCTAD(国連貿易開発会議)の統計データを素に作成。

 このように外国企業が自国に投資する意欲をまったく示さないと言う国は、先進国の中では日本しかありません。日本は少子高齢化しているので、外国企業には投資する国としての魅力に欠けるのだと言う経済学者のコメントが聞こえてきそうですが、ドイツは、近年でこそ移民の流入によって持ち直しの気配もみられますが、日本よりむしろ早く少子高齢化による人口減少が始まっていました(下のグラフを参照ください)。

出典:国連統計データを素に作成。

 日本が外国企業にとって投資意欲を起こさせないのは、少子高齢化による人口減少の見込みがあるからではありません。それは、日本の市場の成長がまったく期待できないからですし(人口が減っても、それを上回る生産性の向上があれば、市場全体は拡大します。なお日本の製造業の労働生産性が近年低落していることはここに説明しています)、さらには日本に工場や研究所などを置いて生産したくなる先端産業技術がないからです。あるいは官僚と“業界”に管理され自由が少ない市場が嫌われている可能性も多いにあります。

 つまり、日本の産業空洞化とは、他の先進国と違って対外直接投資額は特段に大きいわけではないが、しかし対外直接投資額がまったくないことが一番の原因であるということなのでした。そして重大なことは、日本の対内直接投資がまったくない状態が続く一方で、対外直接投資の勢いが加速しつつあり、他の先進国を追い抜いて世界で一番大きい国になってしまっていることです。

 このことは、1980年代以降ずっと外国企業が日本に直接投資する意欲がなかったことに加えて、2000年代に入っては日本の企業も国外脱出を図っている、つまり世界中のどの企業も日本と言う市場や日本の先端産業技術に魅力を感じなくなっていると言うことです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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