小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔3〕日本経済全体(経常収支)が赤字になる

(3) 所得収支の黒字は喜ぶべきことか?

 所得収入とは、その国の企業や個人が海外に投資し、或いは預金した資産が生んだ配当金や利息による収入などの合計金額のことです。一方、所得支出は、国内に外国企業が投資し、或いは預金した資産が生んだ配当金や利子の外国にいる投資主への支払いの合計金額です。そして、所得収支とは、所得収入から所得支払いを差し引いて得られるその国の投資や預金などによる純(ネット)収入のことということになります。

 経済学者たちは、成熟した先進国はどこでも、過去に積み上げた富の産む果実である所得収支の黒字で貿易収支の赤字を賄って安定した国の豊かさを実現するのだと主張します(イギリスの経済学者であるジオフレー・クローサーが唱えた“国際収支の発展段階説”によって区分された6つの発展段階のうち5つ目の“成熟債権国”であるという主張です)。そして実際に、年々所得収支の黒字も大きくなっているではないかと言うのです下のグラフを参照ください)。さらには、年々の貿易赤字を問題とする者がいれば、それはその人が経済学と言うものを理解していないことの証〈あかし〉だとまで言います。

出典:IMFのデータを素に作成。実質額を算出するに当たっては、アメリカ政府公表の消費者物価指数を使用。 出典:財務省『国際収支状況』掲載データを素に、統計局が公表する消費者物価指数で2015年価格に割り戻した値として作成。

 それでは、日本の所得収支の黒字は一体どれほど大きいと言うのでしょうか? 2015年の日本の所得収支の黒字額はIMF統計では1,707億ドルであるとしています。そしてこの額は、世界で最も所得収支の黒字額が大きいアメリカの1,824億ドルに匹敵する巨額のもので、その他の先進国をはるかに凌いでいます(下のグラフを参照ください)。

出典:IMFのデータを素に作成。実質額を算出するに当たっては、アメリカ政府公表の消費者物価指数を使用。 出典: 世界銀行統計データを素に作成。

 所得収支は、所得収入から所得支出を差し引いて得られる額ですが、日本の2015年の所得収入(2,420億ドル)はアメリカ(7,829億ドル)の3割(30.9パーセント)しかありません。そして日本の半分も所得収支の黒字額がなかったドイツの所得収入(2,160億ドル)は日本の9割にも達しています。つまり、日本の所得収支の黒字が大きかったのは、所得収入が多かったからであると同様以上に所得支出が少なかった(713億ドル)ことによるのです。それに比べてアメリカの所得支出(6,005億ドル)は日本の8.4倍もあり、ドイツの所得支出(1,453億ドル)は日本の倍もあります。つまり、アメリカもドイツも、そして多くの他の先進諸国も、所得収入に匹敵するぐらい多額の所得支出があるのです。

 このことは、日本以外の先進国は、互いに投資し、あるいは投資されると言う資本が相互に行き交う関係をもっていることを意味しています。それに対して、日本は他国に投資するが他国からは投資されない国だ、と言うことです。所得収支が黒字であると言うのは、もちろん悪いことではないのですが、かと言って手放しで喜んでいいと言うわけのものではないと言うことは理解されると思います。そして、この日本の特異な国の形は昔からそうであったというわけではありません。

 1990年代前半前、つまりバブルが崩壊(1991年)してからしばらくの間までは、日本の所得収入も所得支出もアメリカのものとほぼ同額でした(下のグラフを参照ください)。しかし1990年代後半以降、アメリカの所得収入と所得支出の双方が一貫して増えていったのに対して、日本の所得収入はほとんど増えず、所得支出は1996年に激減した後、所得収入の数分の1しかない低い水準を続けてきています。

出典:IMFのデータを素に作成。実質額を算出するに当たっては、アメリカ政府公表の消費者物価指数を使用。 出典:IMF統計データを素にアメリカ政府の公表する消費者物価指数で2015年価格を計算して作成。

 つまり、日本の所得収支の黒字が大きいということは、日本が外国から投資されるに足る魅力的な国ではなくなった(このことについてはここに詳しく説明しています)という憂うべき事態が裏にあると言うことをよく理解しておかなければなりません。日本は官僚や経済学者たちが言うような、世界史の典型的な国家の発展のパターンに乗った成熟した先進国の形はしてはおらず、特異な形をしています。

 そして、官僚や経済学者が大事と考える日本の所得収支の黒字額は、順調に増え続けているわけではなく減り始めている、ということを、次項(ここ)の経常収支についての説明の中で明らかにしています。そして官僚や経済学者の主張に沿って言えば、日本は国の発展の5段階目である“成熟債権国”から最後の6番目の段階である“債権取り崩し国”に進行する直前の状態にある、と言うことを小塩丙九郎は考えています。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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