小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔3〕日本経済全体(経常収支)が赤字になる

(4) 経常収支は赤字になる

 いよいよ日本と言う国の総合的な収支の行方を考えて見ることにしましょう? 日本の政府官僚や多くの経済学者に大きな危機感は見受けられません。それは、彼らが円表示の経済指標を見ているためだと思えるのですが、下に2つのグラフを用意しました。1つは日本の国際収支、つまり貿易収支とサービス収支と所得収支とそれらを合計した経常収支(若干無視した小さなものはありますが、国際収支全体についての説明はここにあります)を(実質)円で表示したもの、そしてもう1つはそれを(実質)ドルに転換して示したものです。先ずは、それらのグラフを見比べてください。毎年の額を細い線で結び、小塩丙九郎がそこから読み取った長期トレンドを太く色づけした矢印線(薄青色:貿易収支、灰色・サービス収支、薄紫線:所得収支、薄赤線:経常収支)で示しています。

出典:小塩丙九郎が作成。

出典:小塩丙九郎が作成。

 2016年以降2025までのおよそ10年間の部分は、もちろん予測です。そしてそれは、通常経済学者がやるように、いつくかの経済指標を既存のデータ解析法、経済モデルと呼ばれるもの、でシミュレートして得た結果ではありません。小塩丙九郎にそのような技術がないことは白状しておかなければなりませんが、しかし経済モデルと言うのはそれを設計した学者や専門家の思想や考え方を強く反映するものであって、難しい方程式を当ててデータ解析したら途端に純粋に科学的になると言うものではありません。

 近代的な経済学者や専門家と呼ばれる人の大半は、小塩丙九郎と違って産業技術開発が何であるかと言うことを理解せず、それが経済構造の基本を変えることが大きな経済社会の変革を起こすのだと言う風には考えず、政府の支出や金利、或いはさらに日本の場合には為替レートや物価上昇率を操作すれば経済は何とでも動かせると考えています。

 しかし、小塩丙九郎はその様には考えていません。産業技術革新が経済社会の根本を変えるのだという理解にたてば、経済学者が重要視する経済指標を機械的に操らないで、経済社会の全貌を見据えながら時代の波を読む方が余程正しく未来を見通せると思っています。そこで、重要な経済指標をグラフに表しながら、その中から過去の趨勢と未来の見通しを読みとることとしています。それが、グラフ中に色づけされた太い線を描いた理由です。

 さて、日本の政府官僚や多くの経済学者が見ているはずの(実質)円表示のグラフでは、貿易収支は毎年5兆円ほどの水準で安定し、サービス収支の赤字は解消し、所得収支はどんどんと伸び続けるように見通せます。そしてそれらを合計した経常収支は、今までは赤字になることが心配されていたのですが、一転して黒字幅を広げると言うことになります。そうであれば、日本の国際収支について心配することは何もないということになります。

 多くの経済学者や経済専門家と自称する人たちは、これは成熟した資本国家のあるべき姿だと説明してくれます。新興国が発展を続ければ、やがて先進国は貿易戦争で容易に勝つことはできなくなるが、しかし長年に蓄積した資本を世界中の発展する地域に投資して、それの果実を配当金や金利と言う形で国内に還流して、それを糧に国民は豊かであり続けることができるし、日本も既にそういった富裕な資本主義国の仲間入りをしているのだ、と言うのです。

 そしてこれらの人たちは、実際に過去に蓄積された富の果実が実際に現れた所得収支がどんどんと増えていくことがその証拠であり、貿易収支の赤字は心配することなどない。アメリカだって大貿易赤字を抱えていると言うのです。それではどうして、多くの日本人は日々貧困の恐怖に晒されなければならないのかと思うのですが、それは素人の思い違いに過ぎないと言って切って捨てられます。

 しかし、(実質)ドル表示されたグラフからは、そのような楽観的な見通しを得ることは難しいことです。(実質)円表示で増加を続ける所得収支ですが、(実質)ドル表示のグラフで見ると、2013年以降既に減少過程に入っています。増加していると思えたのは、その間に大幅な円安があったので外国から受け取ったドルを円に換えると額が膨らんだと言うだけのことであったのです。外国に投資する時にはたいていの場合が世界の基軸通貨であるドルで行うのであり、だから外国から受け取るのは円ではなくてドルです。しかし、そのドルで表した所得は減少し始めているのです。

 円安がどこまでも続くのであれば、所得収支の額は増え続けることがあるのかもしれませんが、正常な経済市場でそのようなことは起こりませんし、そしてもちろんそのことは、日本の経済破綻を外国から認知された時に起こることです。こう気が付いて見れば、所得収支が今後よくなり続けると見通すことができるはずなどないことがわかります。

 そうして、日本の産業技術の先進国に対する、さらにはアジア新興国に対する優位も失われて失速しつつある日本の製造業が、今後貿易収支を悪化し続けることは明らかです。(実質)円表示の貿易収支の改善は、近年の無理やりつくりだされた円安による見かけ上だけのものであり、(実質)ドル表示の貿易収支の方がはるかにより的確に日本が置かれた実態を表しているものであることは、何度も何度も繰り返して、数字と産業の現場で実際に起こっていることを合わせて説明しつつ明らかにしているところです。

 日本の経常収支は、2020年代初頭に赤字に転落すると見込まれます。そして、石油や天然ガスの国際相場が何らかの理由でもう一度高値に振れるようなことがあれば、その時期はさらに早まる可能性も残されています。それが、小塩丙九郎の見通すところです。  

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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