小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔1〕輸出産業の崩壊が始まった

(5) 経済学者と小塩丙九郎の見方の重大な違い

 さて、現在(2016年秋)の日本の輸出産業はどのように状態にあるのかと言うことですが、2011年から2012年をピークとして、崩壊段階に入ったということを若い皆さんに伝えなければなりません。

 官僚も、経済学者も、そしてもちろん政治家たちもそのようなことを考えてはいません。彼らは、財務省の貿易統計に現れる輸出総額の推移だけを見ているからです。経済学者の中には(例えば、『円安待望論の罠』〈2016年〉を著した野口悠紀雄)、ドルベースの輸出額の推移を見ることが大事だと主張して、近年の日本の輸出額が減少傾向にあることを指摘する者もいますが、それは例外の部類で、しかもその指摘はとても穏やかなものです。

 では、官僚と多くの経済学者が見ている貿易統計の円表示の輸出額の推移と、以前に小塩丙九郎がその観点がより重要だと説明した(ここ)、実質ドルベース、つまり世界の基軸通貨であるドルに換算した上でインフレ要素を取り除いた額として表示した1980年以降の日本の輸出額を同時に表示したグラフをお見せしましょう。それが、下のグラフです。

出典:財務省『貿易統計』データを素に、年平均円/ドル為替レートとアメリカ政府が公表する年平均消費者物価指数で調整して得た金額を素に作成。

 確かに、官僚や経済学者が言うように、円表示(インフレ要素を取り除いた実質額。但し日本の消費者物価指数で示されるインフレ率は高くないので、名目額に対して大きな修正は施されません)での日本の輸出額(その長期トレンドを赤線で示しています)は1990年代末より急増を始め、その後一貫して増え続けていたものが、2008年秋に起こったいわゆるリーマンショックをきっかけとして生じた世界的景気後退の影響を受けて2009年に急落した後、緩やかに回復基調にあります。最も輸出額が多かった2007年には届かないものの、順調な回復過程にあるように見えます。これを官僚や経済学者たちは、円安の恩恵を受けた輸出産業は繁栄を取り戻しつつあり、企業業績も大きく改善していると喧伝〈けんでん〉しているのです。

 しかしこれを実質ドルベースでみると、様子は一変します。1980年代半ばより増加を始めた輸出額は、1995年をピークに一旦減少を始めたのですが、2000年代に入ると再び勢いよく増加を始めました。しかし2011年をピークとして、突然のようにして崖を転げ落ちるような勢いの減少傾向に転じたのです。これが、小塩丙九郎が2011年から2012年をピークに、日本の輸出産業が崩壊を始めたと主張するあり様の一つの表れです。

 それでは、官僚や経済学者たちの主張と、そして小塩丙九郎の主張と、どちらが現実をより的確に表したものなのでしょうか? それをさらに追及していきたいと思います。

2017年1月4日初アップ 2017年2月21日最新更新(2016年データの追加)
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