小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔1〕輸出産業の崩壊が始まった

(6) 欧米先進国への輸出額の変化

 日本からアメリカへの輸出額は、円表示のグラフを見ると随分と不規則な増減を繰り返しています。特に何らかの大きな傾向はないように思えます(下のグラフの赤線を見てください)。経済学者なら、細かな製品ごとの状況変化を理由に挙げることでしょう。しかし一方、(実質)ドル表示額のグラフ(青線で長期トレンドを表示)は、とても一貫して安定した変化を示しています。

出典:財務省『貿易統計』データを素に、年平均円/ドル為替レートとアメリカ政府が公表する年平均消費者物価指数で調整して得た金額を素に作成。

 (実質)ドル表示のアメリカへの輸出額は、1990年代半ばをピークとして、緩やかな増加が緩やかな減少に転じ、そしてそれ以降年が経るに従って減少の勢いを増しつつあります。2009年のリーマンショックに始まる世界の景気後退はわずか1、2年で回復して、それ以前のトレンドに戻っています。

 このことは、1990年代半ばまで、アメリカ人が日本から買いたいと思った製品は増えていたのですが、それ以降は日本から買いたいと思わせる魅力のある製品がどんどんと減っているということを表している、と解釈すべきです。日本からの輸出が急に増え過ぎるとアメリカ政府が抗議して、いわゆる日米摩擦が起きたのは1970年代初頭から1980年代末までのことです。先ずは繊維製品(1970年代初頭)や鉄鋼製品(1970年代後半)に始まり、1980年代には自動車や半導体が日米政府間の交渉のテーブルに上げられました。しかし、1990年代に入ると、その交渉は途絶えました。日本からの輸出圧力が随分と減ったからです。

 自動車は、日米交渉を通じて日本のメーカーがアメリカで販売する乗用車を現地製造する(1984年にトヨタがGMと合弁で建設したNUMMIが最初。その詳しい説明はここ)こととして以来、貿易摩擦は終息したのですが、半導体を含む電気・電子製品については、最初は韓国や台湾の、そして次いで中国の製品が日本製品と同等の性能の製品を安い価格で販売するようになってからは、アメリカ市場では売れなくなりました。さらに2000年代に入っては、半導体やテレビ受像機については、台湾や韓国の製品が性能面でも日本製品を上回ってしまいました。そして日本の電気メーカーなどが、アジア新興国の生産する以上に革新的な、あるいは高性能を製品を開発してアメリカの消費者を魅了することはなくなりました。

 それが1990年代半ばをピークとして、日本からアメリカへの(実質ドルベースでの)輸出額が減り、しかも減少率を次第に増しつつあることの説明です。このように、ドル表示でのアメリカへの輸出額の推移は、実体経済の説明ととてもよく整合しているのです。一方、円表示のアメリカへの輸出額の不規則な増減を合理的に説明する骨太の論理は、ありません。

 EUヘの輸出については、円表示される貿易統計では、2000年代に入ると突然輸出額が増え、そしてリーマンショックに始まる世界経済の後退によって大きく減額した後、そのままの低水準を安定的に維持しているように見えます(下のグラフを参照ください)。しかし一方、(実質)ドル表示されたEUへの輸出額は、1990年代中まで安定しており、2000年代後半のアメリカの住宅バブルに伴う景気浮揚の影響を受けて僅かに増額したのですが、リーマンショックに始まる世界経済の後退に伴って激減した後1、2年で回復したのですが、2011年をピークとして急速に減額し始めました。

出典:財務省『貿易統計』データを素に、年平均円/ドル為替レートとアメリカ政府が公表する年平均消費者物価指数で調整して得た金額を素に作成。。

 このように、1990年代までは日本のヨーロッパへの輸出は安定していたのですが、2000年代半ば以降に韓国や中国などのアジア新興国のヨーロッパ市場への進出と言う挑戦を受けて、アメリカ市場と同様に日本製品の敗退が始まったのです。これも、日本がアジア新興国の製品と競合しない、革新的な、あるいはより高性能でユニークな製品をヨーロッパの人々の供給することができなかったことが原因です。

 このように、アメリカとヨーロッパという世界の先進国に対して、若干の時間のずれがありますが、日本の輸出額の安定した増加傾向が、1990年代半ばから2000年代半ばより減少に転じたと言う似た状況にあります。そしてアメリカへの輸出の減少が始まったのが早い分だけ、アメリカへの輸出のトレンドの変化は急ではないのですが、ヨーロッパへの輸出のトレンドは、その始まった時期がアメリカより遅い分だけ急激になってしまっている、と理解できるのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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