小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔1〕輸出産業の崩壊が始まった

(7) 韓国への輸出の構造変化

 アジア新興国への日本の輸出額のヘ化について、官僚や経済学者が財務省の貿易統計の円表示額しか見ていないとすれば、とんでもない誤解している可能性があります。円表示のアジア新興国(インフレ要素を消費者物価指数で修正しつつ取り除いた実質額)は、近年増加するという傾向を見せています(下のグラフの赤線で示したトレンドを見てください)。ここでアジア新興国とは、一般にアジアNIEsと呼ばれている韓国、台湾、そしてシンガポールを合わせたものを言います。

出典:財務省『貿易統計』データを素に、年平均円/ドル為替レートとアメリカ政府が公表する年平均消費者物価指数で調整して得た金額を素に作成。

 ところが(実質)ドルで表示されたアジア新興国への輸出額は、まったく違った傾向を見せています。1990年代半ばまでは急激に増加したのですが、1997年から98年にかけて急落した後、2000年代に入ると再び急増したのですが、2012年をピークとして崖を転げ落ちるようにして減少し始めています。円表示の額とドル表示の額と、一体どちらがより現実を的確に表しているのでしょうか? 小塩丙九郎の答えは、もちろん後者です。以下にその合理的な説明を試みてみます。

 1997年から98年にかけてアジア新興国への輸出額が急減したのは、主に韓国への輸出が激減したからです。1992年に韓国大統領に就任した金泳三〈キムヨンサム〉は、“グロバリーゼーション“を合言葉に新自由主義の考えに基づいて市場を自由化し、経済発展を進展させました。しかしこの勢いが過熱して、企業倒産や不良債権額の急拡大があり、韓国経済は一気に失速しました。合わせて、ドルにアジア新興国の通貨が固定(ドルとの為替レートを変えない)されていたために、アジア新興国の通貨が結果として過大評価となっていたことに着目したアメリカのファンドが大掛かりに空売り〈からうり〉(先行き相場が下がることをネタに儲ける方法)を仕掛けたことから、いわゆるアジア通貨危機が始まってしまいました。韓国は、輸入する力をなくして、日本からの輸出額も激減したという次第です。

 ここまでは、円表示の輸出額とも説明は整合していると思います。問題は、2012年以降に何が起こったのか、と言うことです。多くの経済学者は、韓国経済の発展は日本のためだと嘯〈うそぶ〉いていました。韓国の産業技術力は日本に随分と劣っているので、韓国がアメリカなどに自動車や電気製品の完成品を輸出するためには、日本から高性能の部品を買わなければいけない、だから韓国経済が成長すれば、自然と日本から韓国への輸出が増える、と言うのです。

 本当にそうであるのかどうかは、韓国のGDPが増えるに従って日本から韓国への輸出額が増えていたのかと言うことを見て見れば、おおよそ分かります。そのことを確かめて見たのが下のグラフです。確かに2011年までは、韓国の(実質)GDPの増加の勢いと日本から韓国への輸出額(実質ドル表示額)の増え方とは、ピタリと一致していました。日本の経済学者たちの言い分は、2011年まではでは正しかったのです。しかし、2012年に、韓国のGDPの増え方のトレンドと日本から韓国への輸出の増え方のトレンドはまったく違ったものになってしまったのです。

出典:財務省『貿易統計』データを素に、年平均円/ドル為替レートとアメリカ政府が公表する年平均消費者物価指数で調整して得た金額を素に作成。

 もし日本の経済学者たちの主張が正しかったのだとしたら、2012年以降に日本から韓国への輸出、韓国にとってみれば日本からの輸入の構造に大変化が起こっていたことになるはずです。それを確かめるために、日本から韓国への輸出額の増加率が、品目によってどうなっているのかを見て見ました(下のグラフを参照ください)。

出典:財務省『貿易統計』データを素に、年平均円/ドル為替レートとアメリカ政府が公表する年平均消費者物価指数で調整して得た金額を素に作成。

 こうして見ると、赤で塗られた部品の輸出額の増加率が平均増加率より随分下回っている様子が確認できます。音響機器やバイクと言った完成品の輸出額の伸び率が高い一方、韓国が必要とするはずの工業部品の輸出額は随分と高い比率で減っているのです。このことは、韓国の産業技術力が急速に日本に追いつき、さらには半導体やテレビに代表されるように日本を凌ぐほど優秀になって、もはや日本からの部品の輸入を必要としなくなったということを示していると解釈するべきだ、と小塩丙九郎は考えるのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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