小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

1-日本の若者が今置かれている状況


〔3〕 日本の所得格差は、富裕者の強欲が産んだ

(1) 日本は同一労働同一賃金原則から離脱

 経済のグローバル化が進み、製造業に従事する労働者の賃金が世界中で標準化しつつある、ということは既に述べたとおりです。しかし、世界の先進国の中で1国、その法則には従わない特異な国が一つあります。それは、日本です。日本の製造業についての1時間当たり平均総労働コスト(その説明はここ)は、1990年代には既に38ドルの水準に達していました。それ以降は円/ドル為替レートの変化によってドルで表した数値は若干の変動はありますが、おおよそ安定していました。これは日本が世界規模での賃金平準化傾向の枠組みの中にあったということを意味しています。

 しかし、2013年以降、日本は突然その世界的傾向から離脱を始めたのです。そしてそれは、総労働コストを大きく低下させる方向にです(下のグラフを参照してください)。これはもちろん、日本政府の急激な円安政策によって、世界的企業にとって日本の労働コストが大幅に低下していることを意味しています。日本では、労働者の賃金は近年僅かに低下したと報道されていますが、世界市場の中で見れば、日本の製造業での労働コストは異常なほどに大きく、急速に低下しているのです。これはその分、日本に工場を置く企業の労働コストが大幅に下がったということを意味しています。

日本の離脱
出典:アメリカ商務省 Bureau of Economic Analysis データベースを素に作成。。

 円安は、日本の労働者の賃金、或いは総労働コストの低下を招いたのです。円安は、輸出企業を中心に利益を大幅に拡大しました。そしてそうなった理由の大半は、企業の生産コストのおよそ半分を占める労働コストが下がったことによります。


 円安になって、日本の企業の輸出数量はまったく増えていませんし、平均すればむしろ減っています(下のグラフを参照ください)。また輸出総額はその価値が随分と低下した円表示では増えていますが、ドル表示に直すと大幅に減り続けています(さらに下のグラフを参照ください)。日本企業の業績向上は、輸出の拡大によってではなく、労働コストを下げることによってもたらされました。なお、日本の輸出産業が崩壊しつつあることについては、別のところ(ここ)で詳しく説明しています。

輸出数量
出典:財務省『貿易統計』データを素に作成。

各国のジニ係数
出典:財務省『貿易統計』データを素に作成。

 世界市場で公正に競争する企業であれば、円安で拡大した利益の多くを労働者の賃金に還元して、労働賃金の国際的な水準をできる限り維持しようとするべきであったのです。しかし日本企業はそうはせず、それを企業利益として、その一部を株主への配当とし、そして残りを銀行に現金預金したのです。そして富裕な株主へと不当に配分された所得が、日本の所得格差の拡大の原因につけ加わっているのです。

2017年1月4日初アップ 20○○年○月○日最新更新
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