小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

1-日本の若者が今置かれている状況


〔2〕 アメリカの所得格差は経済成長が産んだ

(3) 世界の所得格差縮小のメカニズム

 経済のグローバル化ということが言われています。経済のグローバル化の一面を言い表せば、世界規模の企業がその立地を世界の中で最も相応しい場所に自由に選ぶことができるということです。例えば、世界規模の企業が工場をどこかに建てようと計画します。そのときその企業が考えることは、その国の国情の安定度、労働者の知的能力の高さや勤労意欲、賃金の高さ、土地代や建築費の高さ、事業ついての政府規制の強さ、関税を含め貿易についての規制の大きさと言ったようなことがさまざまに比較されて、その結果、当該企業にとって最も有利な場所が選ばれて、もはや自国を最優先する必要はないということです。

 近年新興国でも国情が安定し、教育が普及し、市場は自由となり、貿易の障壁も低くなっていますので、一番違うのは各国の賃金水準ということになります。そしてその他の条件に大きな違いがないとすれば、当然工場は賃金の最も安い所に建てようということになります。ところで、先に示した世界ジニ係数が急速に小さくなりつつあるということは、この国による賃金格差が急速に縮まっているということを意味します。

 アメリカの商務省が、毎年の世界各国の1時間当たりの平均総労働コストを公表しています。総労働コストとは、企業が労働者に直接支払う賃金と、企業が労働者の福祉や年金のために負担するコストを合計した金額のことを言います。つまり、企業が労働者1人を1時間使用するのに要するコストの大きさということです。そして、アメリカ商務省の統計が示していることは、先進国と新興国の時間当たり平均総労働コストが38ドル(インフレ要素を取り除いて2015年価格で表示した実質額)に向かって収れんしているという状況です(下のグラフを参照してください)。

各国のジニ係数
説明:総労働コスト=直接支給コスト+社会保障コスト
出典:アメリカBureau of Labor Statisticsデータを素に作成。

 例えば、ドイツやベルギーと言った38ドルを超える高い総労働コストを負担していた国の総労働コストは、次第に38ドルに向かって低下し続け、反対に新興国など38ドルより低い総労働コストしか必要ではなかった国の総労働コストは、.38ドルに向けて急速に上昇し続けているということです(下のグラフを参照してください)。

各国のジニ係数
説明:総労働コスト=直接支給コスト+社会保障コスト
出典:アメリカBureau of Labor Statisticsデータを素に作成。

 これは、製造業についての例ですが、他の国際取引が行われるすべての産業で同様のことが起こっています。経済のグローバル化とは、経済活動が国境を越えて行わる度合いが日に日に増しているということです。そして新興国の多くは、既にアメリカを初めとする先進国が従来行ってきた多くの業務を自国で引き受けることができるようになっています。例えば、事務的作業についても、比較的単純な作業であれば、アメリカで事務所が閉じる前に業務をインターネットで英語を公用語とするインドの企業に外注して、インド企業はアメリカの事務所が翌朝開くまでの間にその業務を完成してインターネットで届けておくということが盛んに行われています。だから、労働賃金が世界規模で平準化することは避けられず、その結果世界規模での所得格差は、今後も縮まり続けます。

2017年1月4日初アップ 20○○年○月○日最新更新
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