小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

1-日本の若者が今置かれている状況


〔2〕 アメリカの所得格差は経済成長が産んだ

(5) アメリカの格差拡大のメカニズム(後編)

 2000年代に入ってからのアメリカの所得格差拡大には、もう一つの要因が加わります。それは、アメリカ企業が法人税減税による収益拡大が限界に達したので、付加価値(企業の総売上から企業が仕入れた原材料やソフトのコストを引いた金額。つまりその企業が新たに生んだ価値の大きさ)のうち、労働者の賃金に配分する率を大幅に(平均64→58パーセント水準に)下げたということです(下のグラフを参照ください)。

アメリカ企業の付加価値の配分
出典:アメリカ商務省 Bureau of Economic Analysis データベースを素に作成。。

 これが可能であったのは、以前に説明したように、高度の知識労働に携わるものではない者については、経済のグローバル化の中で賃金の世界的画一化が進んでおり、既に高い水準にあるアメリカ人労働者の賃金は上げないでも、それでアメリカ企業の国際競争力が下がることを心配することはないからです。企業はもうかっているのに、そして経営者たちの所得は増やしているのに、労働者の賃金を据え置くのは、あるいは第T分位に属する労働者の賃金を下げると言うのはひどいじゃないか、とアメリカの多くの労働者たちが怒って、遂に2011年にニューヨークのウォール街で“Occupy Wall Street! We are the 99%!(ウォール街を占拠しろ!われわれは99パーセントだ!)”と叫びながら行進を始めたというわけです(その写真はここ)。

 ですから、アメリカの所得格差拡大の第1段階はアメリカ第3の産業革命による経済の躍進がつくり、第2段階は経営者たちの労働者に対する配慮の不足が起こしたということになります。そして第2段階のアメリカの経営者たちの配慮不足をもたらした原因は、1929年末に始まったアメリカ大恐慌の最中に連邦政府が社会福祉政策を導入し、そして連邦政府の社会福祉への大介入がアメリカ人の伝統的隣人愛に基づく慈善の精神を弱めたからだ(その詳しい説明はここ)、と言うのが小塩丙九郎の解釈です

 言い換えれば、アメリカの所得格差拡大の第1段階は経済問題であり、第2段階はアメリカの経済倫理の問題です。

 しかし、日本の所得格差拡大をもたらした原因は、まったくそれらとは違っており、経済が停滞する中で、自分たちの所得だけはそれでも増やしたいと考えた日本の経営者たちが低所得者から所得を奪って自分たちのものにした結果だ、と言うのが小塩丙九郎の考えです。以下になぜそう考えるのか、を詳しく説明します。

2017年1月4日初アップ 20○○年○月○日最新更新
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