小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[3]アメリカの格差はとトランプと言う男

(5) 反知性主義”というレッテル貼りの不都合

 複雑なといったのは、キリスト新教の原型が、ピルグリム・ファーザーズが新大陸に渡ってわずか16年でハーバード大学をつくったことに象徴的に著されているように知性主義的であり、トランプの属する長老会派はそれを代表する最も伝統あるグループの一つなのですが、反知性主義は、そのような体制的な権威に反発して、最初は広大な広場で、そしてのちにはテレビなどを通じて、人はみな平等だという感性に訴えかけて大衆の間に熱狂を産み出す運動を展開した人々の考えであるからです。

 トランプ自身が、自分の属する宗派の教義に反して反知性主義的な観念をもったのか、あるいは、ただ単に反知性派主義の人たちの大衆を引き付ける手法のみを利用しているのに過ぎないのか、確かなことはわかりません。トランプ自身は、アメリカで5指のうちに入るという名門MBA(経営修士号)授与校であるペンシルヴァニア大学ウォートン校の卒業生ですからですから、経歴から言えば知性主義の権化のような人です。トランプが、自身が主張するように長老会派に属し、しかもハーバードと並ぶ名門校の卒業生であるのであれば、トランプの心中に深刻な矛盾が起こっているはずなのですが、そのことに言及することなくトランプが反知性主義の爆発に乗っているとの解説も、随分と不十分なものだと思うのです。

 そもそも、アメリカ人の中には、トランプは長老会派に属しているというのはあやしいことだとか、本人の主張に反して聖書を詳しく読んだことすらないのではないかと批判する人もいます。宗教という観点からは、トランプの正体は、はっきりとはしません。また、不動産業者というのは、金融ディーラーに近い2000年代に生じた経済バブルに最も近い所で仕事をしてきた人でもあります。アメリカ産業の核を構成するIT、医薬、医療その他先端機器、航空宇宙といった部門において革新的な技術開発を行い実業の実力を溜めてきたという類の人ではありません。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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