小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[3]アメリカの格差とトランプと言う男

(4) 格差と宗教

 日本では、所得格差が拡大させる富豪が現れたというと、直ちに強欲な金持ちが現れたとアメリカの国民が思っていると考えてしまいすが、それはアメリカ国民が日本人と違ってとても宗教的な心情をもっているということを理解しない議論です。日本では、多くの人々は、21世紀の今日、宗教という非科学的な妄想から人は解放されていると考えるのですが、それは日本の常識、世界の非常識という典型的なものの見方です。アメリカが、先進国の中で最も宗教心の強い国の一つであるということは、世界の共通の認識となっていますし、有名なアメリカのシンクタンクであるピュー研究所の世界を対象として定期的に行われている世論調査でも証明されています。例えば、2010-14年の調査で、「神を信じる」と答えたアメリカ人の割合は88パーセントにのぼっています。ちなみに、ドイツ人ではその割合は、63パーセント、日本人では41パーセントです。

 アメリカでは、どの大統領候補も、その奉ずる宗教がはっきりと表されています。例えば、民主党候補であるヒラリー・クリントンはキリスト新教メゾジスト派、バーニー・サンダースはユダヤ教、そしてトランプはキリスト新教長老会派というようにです。そしてトランプが奉ずる長老会派というのは、1620年にメイフラワー号で新大陸に渡ってきたピルグリム・ファーザーズが信仰していたキリスト教の形に最も近いものの一つだと言えます。つまり、16世紀に、ジュネーブでカルヴァンが産んだ新教の原型に近いということになります。

 しかし、トランプは、反知性主義に乗っかった議論をしていると指摘ることがたびたびあります。そしてそのことが、問題を複雑にしています。最も原型となるキリスト新教は、人の生涯の目標は倹約を続けながら事業を成功させて大きな利益を蓄積して富を築くことだと教えています。そしてその富は、神から授かった能力を用いて天職を懸命に行った成果なのであるから、その人個人の所有に属するものではなく、社会の発展や自分の責任ではない事情によって困窮する者への慈善の資源として使わなければならないと説いているのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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