小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[3]アメリカの格差とトランプと言う男

(3) アメリカに変化の兆しがある

 ところで、アメリカの20世紀初頭の所得格差拡大をもたらした経済大成長は、1929年10月のウォール街での株式相場の暴落で突然終わったと経済学者たちは説明しています。しかし実際には、1920年代の好況は根拠のないバブルであることは、1920年代当初から1人当たりGDP、つまり労働生産性の伸びがゼロに向かって着実に落ちつつあったことから予測されたはずのことでした(下のグラフを参照してください)。カーネギー、フォードなどのベンチャー起業家による大技術革新がおおよそ終わって、経済拡大を続けるエネルギーが枯渇してしまったからです。大恐慌を産んだ最大の原因は、政府の景気操作、つまり金融財政策の誤りではなく、技術革新が終わりつつあったことについて、経済学者や政治家を含む多くの者が無頓着であったことです。

アメリカの成長率
出典:玉野井芳郎編著『大恐慌の研究−1920年代アメリカ経済の繁栄とその挫折』(1964年)に掲載されている『付属統計表』データをもとに計算。

 技術革新が絶えてしまったアメリカの産業は、1930年代の10年間低迷することになります。ちょうど1990年代以降の日本のようにです。そしてアメリカは1930年代末、1939年にヨーロッパ大陸で勃発した第2次世界大戦が発生させた軍事特需によって救われました。ところが、今回は少し様子が違うのです。既に説明したように、21世紀に入って所得格差の拡大は止まったのですが、それでも1人当たり実質GDPの伸びは、リーマンショック後も衰えを見せていないのです(下のグラフを参照ください)。1人当たり実質GDPの対前年伸び率は、2パーセントを僅かに下回る水準で安定しています。これは先進国としては、とても高い比率です。

アメリカの成長率
出典:アメリカ商務省Bureau of Economic Analysis データを素に作成

 アメリカは、所得格差を拡大させないで、経済を安定的に成長させるという、これまでになかった新たな段階に入ったと判断できます。第3の産業革命が終わらず、技術革新が続いているためです。アメリカの所得格差拡大は、一方では低所得者の実質所得がまったく増えないという底辺が固定された状態で、他方、ベンチャー起業家などの所得が増大し続ける、つまり上辺が上昇し続け、その間の幅が広がるという形で進んできたのですが、21世紀に入って上辺も固定される形になったのです。このことは、アメリカは、21世紀に入って所得格差を拡大しないで経済成長を続ける、つまり、社会構造を安定させたうえで成長を続けるというアメリカ史上初の段階に入ったということを意味します。そしてことのことは、今後の低・中間層への所得配分の可能性についての期待を抱かせます。

 だとすれば、アメリカは、残された課題である低所得者の不満をどう取り除くのかという問題に国の総力をあげて取り組めばいいのだということになります。そしてこれは、経済成長する力を失って、醜い限られたパイのとり合いが始まった日本とは、まったく問題の質が誓うのだということについては、ようく理解しておく必要があると思います。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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