小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[3〕アメリカの格差とトランプと言う男

(2) 経済成長と所得格差はベンチャー起業家がつくる

 アメリカには、所得格差が開いたときが、1980年代以降の今回を含み2回あります。もう一度は、アメリカの第2の産業革命の後半期、つまり19世紀末から20世紀初頭で大恐慌直前までの時期です。アメリカの所得格差位の拡大を大声で批判したフランス人経済学者トマ・ピケティが提供した高額所得者の所得者のシェアは、実際を相当大きく誇張しているように思えますが、しかし、時代の趨勢についてはおおよそ正しくとらえているように思えます(下のグラフを参照下さい)。そして複数の統計から推定されることは、大恐慌直前の拡がった格差の大きさと21世紀初頭の格差の大きさがほぼ同じ程度であるということです。

アメリカの成長率
出典:アメリカ商務省Economic Analysis、The Conference Board of Canada及びトマ・ピケティ著『21世紀の資本』付属HPのそれぞれに掲載されたデータをもとに計算(カナダ統計についてはグラフ線形をコピー)。

 このことが第1に教えてくれることは、経済が本格的に長期にわたって成長する時には、所得格差の拡大は避けられないということです。19世末から20世紀初頭にかけての第2の産業革命の時期と、20世紀初頭から21世紀初頭にかけての第3の産業革命の時期に共通していることは、革新的な企業家がリスクをとって事業を急展開させることによって急速な経済拡大が実現したということです。決して、企業官僚が経営する大企業が経済発展をもたらしたのではない、ということが重要です。

 19世紀中にアメリカを世界1の産業国家に育てた最大の功労者は、イギリスを技術的にも量的にもしのぐ鉄鋼産業を発展させたアンドリュー・カーネギーだと私は考えています。日本人に彼の名は、カーネギーホールの創立者として知られていますが、著名な音楽ホールに彼の名が冠されたのは彼が死んだ後のことで、彼は売名好きの人ではありませんでした。

 カーネギーは、意外なことに、株式会社という形での企業経営はよくないものだと主張しています。「株式会社の最大の弱点は、発明や冒険ができないことである。会社にとって最も重要なことは決まった配当を株主に払うことであり、会社を発展させることではない」というのです(『富の福音』〈1901年〉より)。だから、実業界より富豪を排斥すれば、ことに当たって危険を引き受ける者がいないため、将来の発展が難しくなると論じました。カーネギーは、巨大な大富豪になったのですが、その本質はベンチャー起業家であったということです。

 つまり、2つの世紀をまたぐ時期に起こった2つのアメリカの経済大成長は、ともにベンチャー起業家がもたらしたものであり、成功したベンチャー企業家は、後半生に大富豪と呼ばれるようになります。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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