小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[3]アメリカの格差とトランプと言う男

(1) グローバル化は世界格差を縮める

 アメリカでの所得格差は拡大してきたのですが、一方、経済のグローバル化が進んだために、世界規模での所得格差は大きく縮まったということがわかっています。ジニ係数というは、国別の所得格差の程度を示すときによく使われる指標です。すべての人の所得が同じだとゼロに、そして1人の人がすべての所得を独占したときに1になります。だからジニ係数が大きいほど、その国の所得格差は大きいということになります。そして測定の対象を世界に広げた世界ジニ係数というものが計算されていますが、その値は、20世紀後半以降、一貫して小さくなり続けています(下のグラフを参照ください)。

アメリカの成長率
出典:The Conference Board of Canada著“World Income Inequity”掲載グラフ。

 20世紀後半から21世紀初頭にかけて、世界の所得格差は縮小し続けています。そしてこのことは、世界の多くの人々に経済のグローバル化の恩恵をもたらし、そしてそのことによって多くの人々が平和を望むようになり、世界から戦争や紛争のタネが減っていっていることを考えると、アメリカ人を含む先進国の人々も、世界の安全が高まりつつあるという恩恵を受けているということになります。局地的な民族間の戦いは後を絶ちませんが、大規模な戦争が起こる可能性は、まことに小さくなりました。グローバル化がもたらす、先進国内での格差拡大のみに目を奪われていては、賢明な判断は下せないということです。

 自国の所得格差の拡大を批判する人は、二つの態度表明を迫られています。それは、自国の格差を縮小するために、世界経済のグローバル化をやめ、世界の所得格差が縮まらないことについては無頓着でいるか、それとも自国の所得格差拡大についてはある程度認め、世界の所得格差縮小を歓迎するかという選択です。自国と世界の所得格差の両方を同時に小さくするということは、容易なことではありません。しかし実態は、自国の格差縮小を訴える人は、この世界の格差の縮小については、まったく意識がありません。

 アメリカの所得格差の拡大は、トランプが主張するように、メキシコ国境に高い壁をつくって、移民をすべて禁止すれば、少しですが緩和されます。低所得を受け容れる労働者の絶対数の伸びが小さくなるからです。アメリカの近年の合計特殊出生率は、人口維持に必要な2.1人をわずかに下回る1.86人(2014年)であり、低所得者の割合が特に高い黒人やヒスパニックも格段に出生率が高いわけでもありません(黒人:1.87人、ヒスパニック2.13人)。

 そして、低所得者の従事する仕事は、飲食店員やキャッシャー、あるいはビル清掃員、ヘルスケア補助員といったもので、世界経済のグローバル化によって仕事が外国に奪われているというものでありません。それらの作業は、近年技術革新によって高度化されていないので、メキシコ国境を閉じたからと言って、急に賃金が上昇し始めるとは思えません。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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