小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[2〕アメリカの格差はどうして起こったのか?

(9) 世界規模での同一労働同一賃金になっている

 アメリカの労働統計局が公表しているデータによると、1996年から2015年までの19年間に、世界中の先進国の製造業に従事する労働者の実質賃金(インフレを加味して修正した総労働コスト;総労働コストとは、労働者に直接支払われる賃金と、企業が負担する社会保障費の合計です)は、時間当たり38ドル(2015年価格)を目指して、それより高い国の賃金は下がり、それより低い国の賃金は上昇しました(下のグラフを参照してください)。

平均労働コストの変化
説明:総労働コスト=直接支給コスト+社会保障コスト
出典:アメリカBureau of Labor Statisticsデータを素に作成。

 いわば、世界規模での同一労働同一賃金の原則が働き始めたのです。こうして見ると、アメリカの製造業にかかる労働者の賃金は、随分と以前から時間当たり38ドル水準に到達していたので、賃金が増えなかったのであり、そして今後とも増える見込みはないということです。つまり、アメリカの製造業が空洞化し続けるかどうかということとは関係なく、アメリカの製造業に関わる労働者の賃金は今まで増えてこなかったし、これからも増えないということです。

 ところで、日本の製造業に関わる労働者の賃金だけが、異常に減少しています。これは、日本の製造業にかかる労働者の賃金は、2011年には時間当たり38ドル水準に達していたのですが、それ以降円ベースでの賃金を上げなかったため、政府施策により円安が急速に進んだ結果、日本の労働者の実質賃金が国際的には世界水準の3分の2である時間当たりおよそ23.6ドルになってしまったということです。これによって、日本の労働者の賃金は、韓国(22.7ドル/時)と並んでしまいました(下のグラフを参照してください)。

アメリカの成長率
説明:総労働コスト=直接支給コスト+社会保障コスト
出典:アメリカBureau of Labor Statisticsデータを素に作成。


 つまり、日本の労働者賃金は、新興国並みの水準に下がったということです。日本の多くの大企業が2013年以来利益を増やしてきたというのは、こうして、日本の労働者に払う賃金を先進国水準から新興国水準に下げたことによると理解できるのです。そうして産み出された企業利益の相当部分が、株主配当として日本と外国の富裕者に配分されているのです。

 日本の官僚、政治家、多くの経済学者、そして企業経営者は、時間当たり労働コストを世界水準の38ドルから23.6ドルへと14.4ドル、つまり1700円(2015年平均為替レートで換算)、も下げて、それを国内と外国の富裕者へ支払って、それで株価は上がったとはしゃいでいるということです。日本の若い皆さんは、アメリカの格差問題よりさらに質の悪い所得格差を押し付けられているのだということを理解して、アメリカの若者以上に怒らなければなりません。何しろ、世界中で、労働者の賃金を世界水準以下に大幅に引き下げているのは、日本だけなのですから。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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