小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[2〕アメリカの格差はどうして起こったのか?

(7) 近代資本主義と慈善

 ゲイツやバフェットの行動が、1世紀前のロックフェラーやカーネギーの行動の延長上にあることは明らかであると思います。そしてこれら二人については、1世紀前の先人に比べて非難の度合いは減っているように思います。しかしそれは、二つの違った時代の2人ずつの行動が違ったというより、2人の事業で雇用された労働者の労働の内容が肉体作業であったかどうかという違いによるように思えます。私は、これら4人の間に本質的な違いがあるようには思えません。

 経済学者の中には、同じ20世紀初頭にあっても、例えばヘンリーフォードが立ち上げた自動車生産工場は、当時の相場の2倍の1日5ドルという高額の賃金を支払って、労働者を大切にし、しかもその上で高い消費能力をもった国民を育てた高邁な経営者であったと説明して、フォードと先の2人との違いを強調する人たちがいます。しかし、事実は、フォードのつくったベルトコンベアーを多用した工場での労働があまりに単調で、労働者が1月といつかないので、やむを得ずとったのが相場の倍の賃金を支払って労働者を確保するということだったのです。

 どの時代でも、自由な経済社会では、労働市場は需要と供給のバランスの上に立ってしか動きません。フォードも、同時代の2人、あるいは後の時代の2人の富豪も、労働者に対して違った態度をとったわけではありません。事業を行うためには、自由市場を維持して、合理的に最善の事業判断を行う。そうして最大の販売高と利益を得る。それはアメリカ建国の精神となったキリスト新教の求めるところです。そしてそれで経済的な果実を得て、それを教義に従って適切に別の目的、例えば慈善、に使えば、それでいいのです。

 そのように考えて、フォードも大きな財団を残し、ロックフェラーやカーネギーは大学を残し、ゲイツやバフェットは世界から病気と貧困をなくす事業に取り組んでいます。アメリカの社会格差の拡大を論じる時には、このようなアメリカ社会全体の成り立ちの歴史や現代のあり様を視野に納めておかなければならないということです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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