小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[2〕アメリカの格差はどうして起こったのか?

(6) ゲイツやバフェットの慈善は売名行為か?

 今の世界で一番の富豪は、マイクロソフト社を創設したビル・ゲイツであるということはよく知られています。雑誌フォーブスの2016年世界富豪ランキング表では、その総資産は750億ドル、およそ8兆円とされています。日本1の富豪はユニクロブランドを立ち上げた柳井正(ファーストリティリング)でその資産は146億ドルとされていますから、ゲイツは日本1の富豪より5倍金持ちだということになります。

 アメリカでゲイツに次いでの大富豪はウォーレン・バフェットという元投資家で、その資産は608億ドルです。ところで、このアメリカのトップ2人の富豪が協力して財団を立ち上げ、経営していることについては、日本では知っているという程度のことで、その意味が深く詮索されることはありませんが、しかしとても重要なことだと私は考えています。

 ゲイツは、2000年に妻と一緒にビル&メリンダ・ゲイツ財団を創設しました。世界中の病気や貧困を減らし、あるいは国内では教育機会を増やすことを目的とした財団です。ゲイツが2013年までの間にこの財団に寄付した金額の合計は280億ドル(およそ3兆円)に達しています。そして2006年には、この財団に対して、バフェットが300億ドル(3兆円以上)を寄付しています。そして、2015年現在のB&MG財団の基本財産は396億ドル(4兆円超)、そして毎年の事業費は40億ドル(4,000億円超)の巨大なものとなっています。

 バフェットは、個人資産の85パーセントを慈善団体に寄付することを宣言し、そのうちの83パーセントをB&MG財団に寄付したというわけです。そして衝撃的であったのは、ゲイツとバフェットがアメリカの富豪48人に、個人資産の半分以上を寄付するように呼び掛け、短時日のうちに1,500億ドル(日本の国家予算の2割に相当する20兆円弱)拠出させることに成功したというものです。

 アメリカで、富豪の寄付が盛んであるというニュースに接する日本人の中に、それは強欲な金持ちの節税対策であるに過ぎない、財団と称して、実質上は子どもたちのために無税の相続財産を残す仕組みであると説明する者が多く、そしてそれを、そんなものか、と信ずる者が多くいます。

 個人納税者の行った寄付金を所得額から控除して、残りの額に対して所得税を課すという税制は、アメリカで憲法を修正して所得税を課すことを正当化した(1913年、憲法修正16条)直後の1917年に、それに対応するようにして歳入法で初めて定められ、そのときに所得の最高15パーセントまでの寄付金が所得から控除することが認められました。そして、それからおよそ半世紀後の1969年には、財団が出捐する個人の節税に利用されているとの批判が強くなったことに応えて、個人の設立した財団については、税控除率を20パーセントに下げ、或いは監督税を新たに課すなど、規制を強めた一方で、大学・病院・福祉施設経営などの有益な公益事業(パブリック・チャリティとプライベート・ファウンデーションの行うもの)については、税控除率が50パーセントにまで高められました。

 さらに、レーガン大統領時代にも、個人の寄付を活発化することを目的とすると宣言した制度改正が行われる等の制度改正が行われています。その後、寄付を後退させる、或いは促進する税制改正が何度か行われていますが、抜本的な改正はなく、公益事業を行う財団へ寄付する個人を優遇する税制は、今日も維持されています。何も、いっとき、富豪たちが力任せに議会でのロビー活動を行ってもぎ取ったといった類の制度ではなく、国民的合意に基づくものであることは明らかです(岩田陽子著『アメリカのNPO税制』〈国立国会図書館『レファランス』2004年9月号〉及びワルデマー・A・ニールセン著『アメリカの大型財団―企業と社会―』〈原著1972年、日本語訳本1984年〉より)。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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