小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[2〕アメリカの格差はどうして起こったのか?

(1) 国力を弱めても格差は縮小すべきか?

 ベンチャーの隆盛は、ついに大企業のみが開発できると思われていたロケットや宇宙船の分野に及び、今の最先端ロケットメーカーは、アメリカのベンチャーであるスペースX社です。その最も衝撃的な成功は、一旦打ち上げたロケットを再び地上に戻して直立して着陸させるという技術です。宇宙漫画に出てくるような技術の成功により、今後衛星発射コストは数分の1以下に下がると見込まれています。日本のJAXAも、ヨーロッパのアリアン社も、類似の技術開発を行う体制をもっていません。

 こうして、21世紀の革新技術の開発と、それを基礎とした新産業開発は、アメリカがほぼ独占しそうなことが、もはやはっきりとしています。アメリカの格差を産んだのは、ベンチャーという仕組みですが、それは技術革新とともに所得格差拡大を同時に産み出しました。アメリカが今後世界の産業をリードする覇権国であり続けるためには、ベンチャーという仕組みを捨て去るわけにはいきません。だから高額所得者の報酬をうんと小さくして、格差を縮小するということを考えることは、容易なことではないのです。

 国力が大きく損なわれる、あるいは安定した年率2パーセントの実質GDPの伸びをあきらめる、そういった選択をアメリカという国がしてまで、格差問題の解決を政策の第T課題とするべきか、というのが、今のアメリカが強いられている選択です。強欲な高額所得者に、高い率の累進所得課税をすればいいじゃないかといった、単純な所得配分のあり方の問題ではないのです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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