小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[1]アメリカとはどんな国か?

(7) ベンチャーは全く新たな形の会社だった

 ベンチャー企業の性格は、二つの言葉によって表されると考えています。一つはスピーディーな革新、そしてもう一つはハイリスク・ハイリターンです。それまでのアメリカ企業の求めてきたものは、厚みのある技術者群が産み出すプラスワンの技術、そして終身雇用+年功序列制度に表される安定した雇用です。

 後者については、日本の伝統であって、アメリカは解雇自由の国であったと日本人は思い込まされていますが、それは日本の官僚、政治家、経済学者の3兄弟がつくりだした最も大きなウソの一つです。アメリカで、もっともそうした制度を一生懸命に運用したの企業の一つはIBMで、その企業名は“I’ve been moved”の頭文字だと茶化されたものでした。IBMでは、昇進させるときに、日本と同じように単身赴任させることが多かったからです。つまり、IBMは、ベンチャーの真反対の構造をもった会社であったということです。

 革新的な技術は、年とった上司に理解されません。「そんな夢みたいなことを考えていないで、真面目に俺の言う通りのことをしろ」と言われるのがオチです。普通の人に先が見えないようなあやしげなことが実現するから“革新的”なのです。みんながその良さに気付く頃には、業界の誰もがやっています。

 だから革新技術開発に取り組むことのできるのは、「俺の一生を賭けてやるのだから勝手だろ」というタイプの人だけです。そして人生を賭けるのだから、成功したときにはタンマリと報酬をもらえなければ割に合わないのです。そういう人たちがつくる会社がベンチャーです。ITの世界で、ベンチャーが産み出す技術や製品が、IBMのものを瞬く間に時代遅れとしてしまいました。小さなベンチャーが、巨人IBMを倒してしまったのです。

 技術が革新されるということは、今有用な技術が明日には時代遅れになるということです。だから新たな技術は新たなメンバーによって実現されることが多いのです。昨日まで役に立っていた人たちが明日は邪魔になることもある。そうなれば、企業のやるべきことははっきりとしています。古い役に立たない人を解雇して、新たに必要な人材を雇うのです。終身雇用や年功序列といった制度は邪魔になるだけの有害な制度になりました。役に立っている時には、高額の報酬を払うので、その代わり解雇は自由だというわけです。これが、ハイリスク・ハイリターンということの意味するところです。

 高額所得者たちは、だから自分たちが高所得を与えられることは当然だと考えています。人生を賭けるリスクをとろうとしない者と自分たちの処遇が格段に違うのは当たり前だ、自分もストリートで立ちん棒をしている側にいたかもしれない可能性も高かったのだと思っています。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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