小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[1]アメリカとはどんな国か?

(4) 所得の取り分を大幅に減らされた低所得者層

 もう一つの数字を見てみましょう。1980年から2014年までの間に増えたアメリカの所得総額のうち、どれだけのものを夫々の所得分位の者が手に入れたかを、1970年代のそれと比べてみるのです(下のグラフを参照してください)。そうして見ると、トップ5パーセントの高額所得者のシェアが16.0パーセントから26.9パーセントへと7割近くも増えたことがわかります。そしてその影響を受けたのが、アメリカの中流の核である第V分位の者(25.6→21.8パーセント)以下の者ですが、最もとり分が減ったのは最低所得の2割の者(第T分位)で、アメリカの実質GDPの増額分の取り分が4.7パーセントから2.1パーセントへと半分以下に減少しています。

アメリカの成長率
出典:アメリカ商務省 Bureau of Economic Analysis データベースを素に作成。
説明:所得総額(賃金総額+配当金総額として計算)に対する各所得分位毎の期間中所得増額の割合を計算。


 これが、アメリカでは格差が拡大している、トップ1パーセントの者の横暴だと、アメリカの多くの若者たちが叫ぶ実態です。最も所得の低い者(第T分位)の所得の取り分が少し増えているのに、所得が減っているのは、その間失業率が下がっているからです(1980年:7.2%→2014年:6.2%)。ほとんど増えなかった賃金をより多くの者で分けたために、1人の(実質)賃金は下がったのです。アメリカ経済は安定した成長を続けている、しかし、その分け前はより高額の者により多く配分されるようになったということです。そして以上のデータでは分かりませんが、別のデータからは、特にトップ1パーセントの者により多くの所得が集中していることがわかります。

 アメリカの低所得者の賃金が増えないことに関わる重大な変化が、21世紀に入って以降のアメリカに起きています。20世紀中ずっとアメリカの企業に働く労働者の賃金の取り分は、企業の付加価値総額のおおよそ64パーセントという水準で安定していました。ところが21世紀に入った途端にその割合はおよそ58パーセントの水準へと大幅に下げられてしまったのです(下のグラフを参照してください)。企業での労働者の取り分がおよそ1割減らされたということです。

アメリカの成長率
出典:アメリカ商務省 Bureau of Economic Analysis データベースを素に作成。

 企業での配当金への割り当て分は、1980年代以降次第に増やされており、これが高所得者の所得の急増の一因となっていました。その財源は、一つには法人税減税、もう一つは企業に残す利益金の減額でしたが、それらは20世紀中に限界に達してしまいました。それでも企業は配当金を増やし、そして設備投資を増やし続けたかったので、その財源を賃金カットに求めたというわけです。そして2010年代以降は、企業の付加価値総額のうちおおよそ58パーセントを賃金に、15パーセントを設備投資に、7から8パーセントを配当金に、5パーセントを法人税に、そしておおよそ4パーセントを企業利益として残すという支出配分で安定し、今日に至っています。

 格差は1980年代から2000年代にかけて拡大し、2010年に入って拡大した格差の状態が固定化されたということです。そしてその状態に不満を露わにする若者が増え、2016年の大統領選に大きな力を加えるようになりました。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
©一部転載の時は、「『小塩丙九郎の歴史・経済データバンク』より転載」と記載ください。



end of the page