小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[1]アメリカとはどんな国か?

(3) 1980年代に始まった格差の拡大

 アメリカの格差が拡大したことを測る方法はいくつかありますが、最も標準的なものは、アメリカ人を所得の多さによって2割ずつ5段階に分類して、それを5分位といいますが、それらの分位毎の中位所得の変化を比べてみることです。中位値とは、同じグループのちょうど真ん中にいる人のもつ値ということです。日本でいう平均値は、アメリカでは一般に使いません。アメリカの商務省の統計では、その5分類の他にトップ5パーセントの者の中位所得も公表されていますので、高額所得者とその他の者との格差を知ることもできます。

 1970年代まで、5分位毎の中位所得者の所得の伸び率には大きな違いはありませんでした。ところが、1980年代に入ると途端に大きな違いが出始めました。そのことから、アメリカの格差の拡大が、1980年代に始まったということがわかるのです。それでは、一体どの程度の差が生じたのでしょうか?

 所得の伸びを測る基準として、アメリカの1人当たり実質GDPの伸びをとり、それと各分位、及びトップ5パーセントの者の1980年から最新の2014年までの年平均伸び率を計算してみました(下のグラフを参照してください)。アメリカの経済は、1980年代以降安定して成長しているのですが、2008年に起こったリーマンショックによる世界規模での経済後退の影響を受けて、1人当たり実質GDPの伸びは年1.7パーセントでした。2008年から翌年にかけての経済後退の影響を取り除けば、アメリカは安定して実質年2パーセントの成長を続ける潜在力をもっているということです。

アメリカの成長率

アメリカの成長率
出典:アメリカ商務省 Bureau of Economic Analysis データベースを素に作成。

 1人当たり実質GDPの伸びを上回ったのは、トップ5パーセントの者だけで、トップ5パーセントの者を含む最上位2割の者(第X分位)だけがほぼそれと同じ所得の伸びを達成しています。そしてそれ以下のアメリカの8割の国民の所得の伸び率は、国全体の経済成長率に及んでいません。特に最下位の者(第T分位)は、伸びるどころか反対に減ってすらいます。これが、アメリカ人の所得格差の大きさを最もよく表している数字です。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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