小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


[1]アメリカとはどんな国か?

(2) アメリカは成長を止めない国

 問題の詳細に迫る以前に、その前提として、皆さんに知っておいてもらいたい重要なことがあります。それは、アメリカが1980年代以降、安定して成長を続けている唯一の国だということです。リーマンショック後の世界的経済大後退の影響を取り除けば、アメリカのGDPは、毎年おおおよそ2パーセント成長し続けています(下のグラフを参照してください)。
 
アメリカの成長率
出典:アメリカ商務省Bureau of Economic Analysis データを素に作成。

 またアメリカは、先進国の中でも高い出生率を維持しています。2014年のアメリカの合計特殊出生率は1.86と人口維持に必要といわれる2.1に近い水準で(日本は1.42)、その上移民を多く受け入れ続けているので、総人口の毎年の伸び率は、先進国の中でも上位を保っています(2014年、OECD加盟34か国中14位;0.74%)。つまり、経済的にも、あるいは人口の観点からも、アメリカは先進国ではまれなサスティナブルな(成長維持可能な)国なのです。

 日本人は1970年代から1980年代にかけての高度成長期に、自国の産業力がアメリカのそれを上回ったと今でも信じています。そして日本の輸出力がアメリカの経済を襲って、それに耐えかねたアメリカが円/ドル為替レートの修正を日本に要求することになったのだとも信じています。1985年になされたいわゆる“プラザ合意”です。しかしそれは日米両政府の官僚、政治家と政府にまつわる経済学者たちだけが「大変だ!」と騒いだだけのことであって、経済実態とは何の関係もないことでした。

 そう判断できる二つのことを示します。第1の点は、プラザ合意によって2年間の間に円/ドル為替レートは2倍の円高になったのですが、その間日本の輸出額は急速に増え続け、アメリカの輸出はほとんど増えませんでした。これは日米両国の輸出高を実質ドル表示に換算してみれば直ぐにわかることです。実質ドル表示とは、日本の輸出額をドル表示に転換した上で、日米両国の輸出額を物価上昇分を差し引いて実質的な輸出額に表示し直すことです(下のグラフを参照してください)。アメリカの輸出が急速に増え始めたのは、プラザ合意から3年もたった1988年からのことです。

アメリカの成長率
出典:OECDの統計Statのデータを素に作成。

 もう一つの点は、アメリカの実質GDPは、プラザ合意がなされる前から、停滞から抜け出ていたということです(下のグラフを参照してください)。
 
アメリカの成長率
出典:アメリカ商務省 Bureau of Economic Analysis データベースを素に作成。

 プラザ合意は、アメリカの輸出にほとんど影響を与えませんでしたが、アメリカの経済成長にも関わりがなかったのです。アメリカは、日本の政治的譲歩とは関係なく、自力で1970年代後半に始まっていた経済停滞から抜け出ていました。そしてそのことと、アメリカの格差拡大とは重大な関係があるのですが、そのことについて次第に明らかにしてきます。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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