小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

21. アメリカの格差問題


この章のポイント
  1. アメリカは、1980年代以降安定した成長を続けている、世界で唯一の先進国である。

  2. アメリカが安定成長を始めた1980年代に、アメリカの所得格差の拡大は始まっている。

  3. 1980年から2014年までの34年間に、上位5パーセントの高額所得者の所得は毎年2パーセント伸び続けたが、中位所得者の所得はアメリカの1人当たりGDPの伸び率である1.7パーセントにはるかに及ばない0.4パーセントでしかなかった。

     そして最も低い所得層の人たちの所得は、逆に毎年0.3パーセント減り続けた。これがアメリカの所得格差の拡大を表す最も基礎となる統計だ。

  4. 1980年代には、冷戦が終わって軍やNASAが開発してきた情報技術(IT)の民間利用が解放されたこと、そして所得税率が引き下げられてリスクを採ってビジネスを起こすことが意味あることになったことからベンチャーが起こり、大発展した。

  5. このベンチャーを起こし経営した人たちの所得が急激に増え、一方日本やドイツとの輸出競争に敗れつつあった既存の型の産業に従事する労働者の所得は増えなかった。1980年代以降の所得格差の拡大は、高所得者の所得は生産性の向上を反映して伸びる、しかし中所得者以下の人たちは生産性が伸びないので増えない、その間の差が拡大した結果生じたものだ。

  6. 2000年代に入り、法人税の低下が限界に達して配当金を増やすことが難しくなったときに、経営者たちは労働者の賃金への配分割合を下げた。それでも世界市場水準を下回ることはないのだが、結果として格差の拡大は続いた。

  7. 1980年代から190年代までのアメリカの所得格差拡大は、第3の産業革命の進展に伴い起こったもので、相当の合理性を認められるが、2000年代以降の所得格差の拡大は、近代資本主義の2原則である自由と同胞愛のうちの後者が弱まったことの結果で、合理的と認めることはできないものだ。

  8. 同胞愛の低下は、1930年代の大恐慌の時に導入した大幅な連邦政府の社会福祉への介入を、重大な経済不安が取り除かれた1940年代以降も維持し、あるいはリベラル派の主張に従って拡大し続けたことにある。

  9. アメリカの所得格差位の縮小は、連邦政府の社会福への過大な介入をやめて、アメリカ国民が同胞愛を取り戻すことによって実現できるはずだ。



[1]アメリカとはどんな国か?

(1) 格差問題を科学的に考える

アメリカの社会は1980年代に大きく変わりました。今盛んに言われている社会格差が拡大を始めたのです。それでは、格差の拡大とは、一体どのようなことを言うのでしょうか? そしてその格差の拡大は、どうして始まったのでしょうか? その格差は、誰もが言うように悪いことなのでしょうか? あるいはそれを是正する道は、どんなものがあるのでしょうか? 

アメリカの格差拡大を悪しざまに批判する声が大きくなる一方で、これらの真実を求める疑問に応えようとする努力を日本の官僚や、政治家や、あるいは経済学者が行っている気配はありません。アメリカの強欲な金融資本が、自分たちだけの利益を追求しているからだとばかり批判するのですが、そしてそのことには一理あるのですが、それが最も重要なことではありません。それだけのことなら、アメリカ人自身が、もっと早くからその解決策を講じていたことでしょう。

アメリカ人を強欲者呼ばわりするというだけでは、アメリカの実情をタネにして、日本の現状を振り返って客観的に見直してみることはできません。そして、日本の停滞する現状を解決する道を見出すことはできません。私は、これから、上に挙げた質問に応えられるよう、アメリカの格差拡大の様子を“科学的に”分析していこうと思います。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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