小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔5〕ハイパーインフレは避けられない

(7) インフレにならない理由

 2015年現在、日本に現金残高は、1,774兆円あります。GDPのおよそ3.5倍と言うことです。その過半の910兆円は家計、つまり一般国民、が持っています。そしてそれら資産を銀行預金とし、あるいは保険や年金の積立金としています。そして次にたくさん持っているのが、銀行です。銀行が現金をもっているのは当たり前と思うかもしれませんが、そうではありません。銀行が必要とする現金は、日常の現金の引き出し等に応じるだけのものがあればいいので、それよりは利子を産む貸付金にするのがはるかに多いのです。ですから、20112年度末までは、民間企業の現金資産の方が銀行のそれより大きかったのです。

 しかし、その様子が2013年度より大きく変貌し、2013年度以降は銀行の現金資産が民間企業のそれを大きく凌いで、2045年度末には民間企業の252兆円に対して428兆円もの現金資産をもっています(下のグラフを参照ください)。そしてこの現金資産の多くは、日常取引のために用意されているものではなく、貸付相手がないままに、銀行の金庫に眠っているのです(もちろん実際には、帳簿上の数字の形でしか世の中には存在しませんが)。

出典:日本銀行のマネタリーベースと『資金循環統計』データを素に作成。

 銀行の現金資産がこれほど急激に増えたのは、日銀が通貨、円、を大量に発行して、そのお金で銀行が持っていた国債を買い上げたからです。日銀と政府は、“異次元の金融緩和”策の一環として、大量に通貨を発行してそれを資源に銀行の保有する国債を買い上げて、銀行に貸付資金のゆとりを大きくして、低利で民間企業に貸し付けやすくして、景気浮揚を図り、そしてデフレからの脱却をするのだ、と説明しています。

 中央銀行、日本では日銀、が大量に通貨を発行して市場に供給すれば、経済規模に対する通貨発行総額(マネタリーベース)の比率が大きくなるのですから、相対的に通貨の価値が下がる、つまりインフレが起こる、はずです。しかし、日本は一向にインフレになる兆候はありません。しかしそれは、市場に溢れるはずの通貨、円、が、すべて銀行の金庫の中に貸付相手もなく、だから金利を産むこともなく、静かに眠り続けているからです。上のグラフに銀行の現金資産額の大きさ赤色の線で表すとともに、マネタリーベースの推移を灰色の点線で示していますが、この動きはピタリと一致して、マネタリーベースの増えた分がそっくりそのまま銀行の現金資産として蓄えられていることが確認できます。

 このことは、日銀が余分に発行した通貨すべてが、何の役割を果たすこともなく、銀行の金庫におかれたままになっているのであって、市場には一切供給されているのではないということを意味しています。日銀が通貨、円、を大量に発行した、しかしそれは市場には一切現れなかった、だから市場に流通する通貨、円、の額は変わらず、だからインフレは起きなかったということです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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