小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔5〕ハイパーインフレは避けられない

(5) 非金融資産は大きく目減りしている

 日本人の多くは、GDPと言う数値には興味をもっているのですが、しかし“国富”という言葉にはあまりなじみがありません。GDPが毎年国民全員でいくら稼ぐかという、つまりフロー経済の大きさを表すものであるのに対して、国富とは、あるときに一体国民全体でどれだけの富をもっているのかと言うストック経済の大きさを金額で表した数字です。毎年、といってもその発表時期は少し遅くなるのですが、政府が前々年度末の国富の大きさを、GDPと同じ『国民経済計算』という統計書の中で示しています。その数字を見れば、日本国民がどれほど豊かな国土に住んでいるのかがわかるという仕掛けです。

 国富のうち、金融資産については、別のところで示した日銀が四半期毎に発表する『資金循環』統計の中で知れるのですが、非金融資産については、『国民経済計算』書の中でしか知れません。そしてその価額の推移を見た(2015年価格に換算したもの)のが、下のグラフです。

出典:内閣府『国民経済計算』掲載データを素に作成。

 こうしてみると、金融資産以外の国富が、1990年代半ば以降一貫して減り続けていることがわかります。1994年に3,321兆円あった非金融資産は、2014年に,2742兆円(何れも2015年価格)にまで減っています。率に直すと17.4パーセントの減額です。健全な国であれば、一定程度の経済成長を行って余剰を産み、それを少しずつ蓄積していくので非金融資産も徐々に増えていきます。しかし、政府官僚や経済学者が、日本経済は停滞していると説明するのに反して、政府自身が公表する非金融資産、つまりモノの形をした資産の総額は減り続けているのです。

 ことに減り方が大きいのが土地で、これはバブル期に高騰した地価が以降下がり続けていることを反映しているので、土地の面積が縮小しているというようなことではありません。ここで小塩丙九郎が特に重大だとして着目するのは、機械・設備の資産額の変化です。上のグラフではその変化の様子が少し見づらいので、機械・設備の資産額のみの変化を表したのが下のグラフです。

出典:内閣府『国民経済計算』掲載データを素に作成。

 1994年度末に214兆円の価値があった機械・設備資産額は、20年後の2014年年度末には203兆円にまで減っています。率に直すと、5.1パーセントの減額です。これだけだとわずかなように思えますが、製造業の生産額が毎年2パーセント伸びて、それに合わせて機械・設備資産の資産価値も2パーセント増えていっていたとしたら、318兆円にまで日本の生産インフラは増えていたはずですから、それに比べればおよそ3分の2(63.9パーセント)でしかありません。

 円で生産インフラの価値を測れば、20年間に5パーセントしか価値は減っていないのですが、これをドル(2015年価格)に変換してみると、1994年に3.35兆ドルの資産価値をもっていた日本の生産インフラは、2014年には1.92兆ドルへと1.43兆ドルも減っています。率にすると4割を超える大きな値です(マイナス42.7パーセント)。世界市場と言う観点から見ると、日本の生産インフラは1994年から2014年の20年の間に4割も価値を失ってしまっているのです。先ほどは、期待値の3分の2にしかならなかったと言ってのですが、実は、20年前に比べて現実の生産インフラの資産価値は4割も減っているのです。

 これは、設備の多くが老朽化して価値が減ったというようなこともありますが、より重大な意味は、日本の生産インフラは、かつて産み出していた製品価値の6割の価値しか現在は産み出すことができなくなってしまっているということを示唆していると解釈するべきです。先端産業技術を開発できず、陳腐化した生産技術で陳腐化した工場設備でつくりだす製品は、アジア新興国の挑戦にあってとても速く低下する価格でしか売れなくなっています。ですから、日本の生産インフラは20年間でその価値を4割失ってしまったのです。

 一方、先端産業技術を開発し続けるアメリカの製品は、アジア新興国との競争にさらされず、独占市場で高い価格で売ることができるので、生産インフラの価値は低下せず、反対に成長し続けるのです。

 非金融資産の価値が20年間で2割近く減ってしまった、とくに生産インフラについては4割もその価値をうしなったしまった、この事実を日本人は真摯に受け止めなくてはならない、と小塩丙九郎は考えます。  

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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