小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔5〕ハイパーインフレは避けられない

(10) 財政赤字は解消できない(中編)

 さて、それでは今後はどうなるのでしょうか? 政府の歳出総額と税収総額が一致して、新たな赤字国債を発行せずに済むときはいつか来るのでしょうか? 政府の財政計画は、2020年度予算で赤字国債の発行をなくすと言うものです。これを考えるためには、歳出総額が今後どれほど減らせるのか?、あるいは税収がどれほど増やせるのかと言うことを推定しなければなりません。

 政府の歳出予算は、3つの部分から構成されています。1つは、政府自身が使う一般歳出予算(名前は小塩丙九郎が勝手につけたものです)、もう1つは政府が地方自治体に交付する地方交付税、そして3つ目は国債費です。地方交付税とは、自治体ごとの人口やその構成、インフラ整備の様子などを根拠に各自治体に必要な“基準財政需要額”を計算して、実際の税収との差額の大きさに応じて政府(総務省所管)が自治体に交付する普通交付税と特定の財政需要を政府が認めて裁量によって地方自治体に配分する特別交付税の2つです。後者は交付税総額の6パーセントまでと定められていますが、総務省官僚と政治家の談合によって決められることがほとんどです。

 そして国債費は、金利支払い分と債務償還費からなっています。それら3部の部分から構成された一般会計歳出予算額(当初予算)の推移は、下のグラフに示したとおりです。このうち地方交付税は長年大きく変動していませんし、国債費は国債の発行残高と平均金金利によって変動するのですが、国債については既に詳しく説明していますので、ここでは残った一般経費予算の今後の見通しについて話したいと思います。

出典:財務省HP掲載データを素に作成。

 政府の一般経費予算の中で、最も大きな位置を占めるのは、老人福祉や医療対策を含んだ社会保障費です。そしてその一般経費予算全体に占める割合は、過去20年間(1996→2015年度)の間におよそ3割であったのものが5割を超えるほどにまでなり、なおその割合は上昇の勢いを緩めていません(下のグラフを参照ください)。

出典:財務省HP掲載データを素に作成。

 一般経費予算総額は、1998年度以降一貫して減りつつあったのですが、2007年頃にアジア新興国への輸出が増えて経済が少し成長したことから拡大されたのですが、それ以降は、リーマンショック対策や東関東大震災対策で応急的な対応を行った年度を除いてまったく増えていません(下のグラフを参照ください)。しかしそれでも、社会福祉対策費は拡大し続けています。もちろんこれは、団塊の世代が高齢福祉対策対象となる年齢層に入り、その後も老齢者人口が増え続けているためです。

出典:財務省HP掲載データを素に作成。

 歳出総額全体が増えていないのに、高齢者福祉対策予算の割合が上がっているということは、当然減らされている経費があるからで、それは第1に公共事業費であり、第2に文教予算です。公共事業の多くは、21世紀に入って新設の必要はほぼなくなり、道路やダムなどの維持管理が中心となっていますので、公共事業費の額と割合を下げること自身には問題はありません。

 しかし、日本の公共事業費は、田中角栄総理(在任:1972-74年)の唱えた“日本列島改造論”以降特に、インフラを建設することよりは、むしろ公共事業費を地方に配分することによって、輸出産業の発展で得た所得を地方に再配分する手段に使われてきました。そうすることによって、農業生産が拡大せず、新たな時代に対応した新産業を開発できない地方が、大都市に近い水準の所得と、それによって得られる高い水準の生活を享受してきました。

 しかし1998年以降、高齢者対策が優先される中で、公共事業費は削減され続けてきました。これで地方は、所得を得る大きな手段を失いました。近年の地方の疲弊は、このためです。地方は、自ら新産業を産み出さない限り、後退し続けなければなりません。しかし政府官僚たちは、それに対する政策手段をまったく持っていません。

 地方交付税制度とはそもそも、地方自治体ごとの財政上の違いをなくすことを目的につくられた制度で、そのように運営されています。例えば1つの自治体が大きなリスクを覚悟して産業開発を行いそれに成功し、そのことによって税収が上がったとします。そうするとその自治体は財政上他の自治体より豊かになるので、増えた税収に匹敵するほどの地方交付税の額が減らされます。そうしてできたゆとりを総務省官僚は他の貧しい自治体に再分配するのです。つまり、リスクを賭けて税収を増やしても、その大半は自分のものにならず(例えば固定資産税増収分の4分の3は地方交付税の減額によってなくなってしまいます)、何もしないで自分たちは貧しいと叫んでいる自治体のものとなってしまうのです。

 日本の地方自治政策の基本は、結果の平等です。これは、社会主義者の考えに等しいと言っていいでしょう。自由と競争のない環境では、懸命にリスクをとって地域開発を進めようと言う自治体は出てきません。それが地方の産業開発が進まない最も基本的な理由である、と小塩丙九郎は考えています。日本が近代資本主義国家ではないということの、1つの具体の現れです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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