小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

18. 日本第3の大経済破綻


〔4〕国債の置かれた土壇場の風景

(3) 政府に650兆円の資産はない(後編)

 最後に、59兆円の出資金の内容に触れたいと思います。この出資先は独立行政法人(およそ5割)、国立大学法人(およそ1割)、国際機関(IMF、世界銀行等:およそ1割)であり、前者2つは公益目的に設けられているもので、そのほとんどは、売却しようとしても買い手が見つからないでしょう(高橋は、東京大学を民営化できると言っていますが、小塩丙九郎は同意できません。政府官僚を産むことを目的として設立され、現在も政府官僚と有力教授が一体となって市場を管理し続けることに邁進し続けている東京大学は、いかなる代償を払ってでも廃止すべきである、と言うのが小塩丙九郎の考えです)。そして、国際機関への出資金は処分できません。

 可能性があるのは、日本高速道路保有・債務返済機構、つまり全国縦貫高速道路会社と都市再生機構であり、それぞれ有料道路事業と住宅・宅地開発事業を行っているので、民営化すればその出資金を回収できます。しかし、どちらも国の補助金に大きく頼っていますし、高速道路の建設は自己判断ではなく政府命令によって行う仕組みになっていますので、民間企業のような経営の自由はありません。こう言った特殊な機関に魅力を感じる民間資本があるかどうかは疑わしいのですが、この2つの機関を売却すれば数兆円は手に入れることができます(帳簿上の出資金は合計6兆円)。

 高橋は、日本道路公団を民営化するときに(その結果、今の高速道路会社ができました)、「財務省の御用学者たちによって『6兆から7兆円の債務超過』と騒がれていたが、私が計算したら2兆から3兆円ほどの資産超過だった」と述べています。“御用学者”の主張が正しければ、高速道慮会社は5兆円(高速道路会社への国の出資金額)から6、7兆円を引いた額で、つまりタダにしてさらに1、2兆円の補助金を渡して初めて引き取ってもらえるということになります。恐らく真実は、それらの主張のどこかの中間点にあるのでしょう。都市再生機構についても、同じような議論となることでしょう。要するに、これらの組織への出資金を市場で処分しようとすると、数兆円の収入なるかもしれないし、赤字団体を処分できるが一時所得はないということになるかもしれないということです。これについての真相も、平時にゆっくりと追及してもらうことするしかないと思います。

 そのほかに処分することが考えられるのは、特殊会社であり、そのうち出資額が大きいのは日本郵政株式会社(8.1兆円)、日本電信電話会社(2兆円)、日本たばこ産業株式会社(1.3兆円)です。NTTや日本たばこ産業の株を政府がなぜまだ持ち続けていなければならないのか、小塩丙九郎にはよくわかりません。高橋は、その他についてと同様、官僚の天下り先の確保が目的のすべてと主張します。

 中曽根康弘内閣により、国鉄、電電公社、専売公社の民営化が決定されたのは1985年ですが、電電公社は翌年から株式の処分が始まり、3年で総株数の3分の1が処分されています(下のグラフを参照ください)。JR株(東日本と東海)の公開には8年を要していますが、一挙に6割以上の株が処分されています(西日本は11年後に4割処分)し、2002年にはすべての株が処分されています。

出典:財務省『政府保有株式等の売却状況』(2016年1月19日))掲載データを素に作成。

 しかしNTTの株式については、政府が現在も2割を保有し続けています。さらに、大蔵省が所管するJT株は株を公開するのに9年を要し、その時に処分されたのはわずか2割であり、しかも30年以上経った2016年にも政府は依然として3分の1の株を保有し続けています(最大株主で、他の株主の株保有割合は3パーセント未満)。このことは、大蔵→財務省官僚が、いかに自省管轄の団体を手放したくないと思っているかを示しています。そしてその理由は、高橋が指摘したこと以外に合理的な説明はできません。そして、同じく財務省所管のJTもやはり株の処分が遅れています。

 日本郵政は、ゆうちょ銀行と簡保資金を合わせて2015年度末に126兆円の国債を保有していますが、これは国債の総残高(1,075兆円)の1割を超える額です(11.8パーセント)。これは一時3割を超えていたのに比べると随分と減額されているのですが、それでも依然として巨額であることに違いはありません。日本郵政の減額分を賄っているのは、日銀です。

 日本郵政は超低金利となった国債への依存率(かつては8割と言う高率でした)を低くして外国証券を買わないと(金融マンはほとんどいないので企業資金貸し付けを行う能力はもっていません)、経営が成り立たなくなっているので、財務省も日本郵政の国債売却を認めざるを得ないのですが、その分ますます日銀への依存度が高まるので、財務省官僚も日本郵政の国債保有額の低下をある程度以上は認められなくなるでしょう。その分財務省官僚の日本郵政への指導権限は必要で、その根拠となる日本郵政株の保有は必要だと考えているでしょう。こうすると、JTのときとは別の理由になりますが、やはり日本郵政株の売却ペースは非常にゆったりとしたものにならざるを得ません。

 日本郵政株を筆頭に、日本政府の保有する企業の株式は10数兆円に達しますが、これを迅速に処分することは困難です。JTのような省益を理由とするものについての処分は迅速に行ってもいいのですが、日本郵政の株式の処分は、国債購入機関を減らすことになるので、株処分が国債残高を減らす効果以上に、国債市場のさらなる軟化を招く可能性も大きいのです。このようなことから、日本政府保有株の処分が、政府財政の改善に貢献することはほとんどできない、と小塩丙九郎は考えています。

 特殊会社としては、他に日本政策投資銀行(2兆円)と日本政策金融公庫(3兆円)があります。さらに、営団地下鉄と本四連絡橋会社の分を足すと特殊会社への出資金総額は18兆円となります。このうち、どれが売却可能で、売ればどれだけの資金が国庫に納入できるのか、まるで想像できません。そして、これらの株を売却しようとすれば、陰湿で壮絶な権力争いが様々な場所で起こることになることは避けられません。だから、誰も自らその争いの蓋を開けたいとは思わないでしょう。民営化決定以降、郵政グループの株式公開について二転三転した今までの国民には到底理解のできない騒動がそのことの象徴です。これは、日本が再び財政の安定を取り戻して、様々な基本問題を真摯に取り組むまっさらな体制ができたときの課題としてとって置くほかありません。

 以上をまとめると、「国債問題を考えるときに、配慮しければならない政府の資産は大きくはない」というのが小塩丙九郎の結論です。自分の家にある家財を自分の物差しで測れば結構な財産となりますが、いざ売りに出すと二束三文でしか引き取ってもらえなことがよくありますが、そのことに様子はおおいに似ています。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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