小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

9. アメリカが続ける第3の産業革命


〔2〕情報産業の誕生と企業構造改革

(4) 情報産業は企業構造を変革した

 急激なベンチャービジネスの勃興の陰で、既存の企業も変わらざるを得なくなりました。大勢の新技術にうまく対応できない多くの研究技術者や労働者を固定して抱え続けていては、企業間競争に生き残れません。そのため、既存の企業は、構造改革に積極的に取り組んだのです。企業存続のために削れない部分を残して、それ以外の部署は原則として外部化する、つまりアウトソーシングする、それまで自社内で行っていたことの多くの業務を外注する、場環境が変化しても、外注先の組み合わせを変えることによりすべての部門についての最先端業務を集約する、そういったことが比較的容易にできるからです。

 そして残された部門についても、急速に変化する市場に対応できるように人材を固定化させず流動化させることとしました。それまでの様な終身に近い長期雇用を続けるのではなく、短期の雇用を積み重ね、その人材が有用でないと分かれば、直ちに解雇する、企業は、自らの組織をスリム化したうえで、社内人材も流動化しました。このように、IT産業時代に移行したアメリカでは、企業構造の大改革が実行されたのです。

 企業の業績が大きく悪化して、人員整理を止むなくされるまで追い込まれたときにとる対策のことを、日本では、“リストラ”と呼んでいいます。“リストラ”とは、英語の“restructuring”をカタカナで先ず「リストラクチャリング」と訳した上で、それを縮めた言葉であることを知る日本人は多くいます。しかし、“リストラ”が、“restructuring”とは違ったものであることを知る日本人は多くはいません。常日頃、政治家であろうが、経済評論家であろうが、或いはニュースキャスターであろうが、“リストラ”を「整理解雇」と同義語として使っています。

 しかし、そう理解するのは間違いだと指摘する経済専門家は少なからずおり、それらの人は“リストラ”と言う言葉を避けて、“リストラクチャリング”と言う言葉を使っています。しかし、大きな問題は、これらの人たちのいう“リストラクチャリング”ですら、アメリカでいう“restructuring”とは、その意味するところが随分と違ってしまっていることです。

3種の企業構造改革
  1. “restructuring”:アメリカ企業の白紙からの
               企業構造改革

  2. リストラクチャリング:アメリカの企業構造改革の
                 一部つまみ食い

  3. リストラ:ただの整理解雇

 日本の経済専門家は、1970年代に企業活動を多様化しながら規模を拡大した多くのアメリカの企業が、その結果、効率を下げ、そして経営の悪化、さらには破産の危険に直面していたのを、自らの構造改革を行ってその危機を脱したその策のことをいうと説明しています。そして、企業の構造改革の具体の内容は、事業分野を大幅に変更する(一部事業の撤退を含む)こと、資本構成を大幅に変更すること、或いは大幅組織変更を行うこととされています。

 それを学んだ日本の経営者たちは、一体、アメリカ企業の前例に倣ってバブル崩壊以降、同様の企業構造改革に取り組んだのか? 答えは、「ノー」です。もし取り組んでいたとしたら、“リストラ”という奇妙な和製英語は決して生まれていなかったでしょう。日本の経営者たちは、“restructuring”と言う言葉を“リストラ”と言う短い言葉に置き換えるのと同時に、“restructuring”の内容についても、その一部をつまみ食いすることで済ませてしまったのです。どういうことか? 

 そのことを話す前に、アメリカの企業“restructuring”が、どのような環境の下で行われたのかを、改めて正確に理解しておきたいと思います。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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