小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

9. アメリカが続ける第3の産業革命


〔1〕情報産業の誕生に向けて

(4) 情報産業技術開発の始まり

 日本では、20世紀前半の最も有能な産業技術者が、軍事関連産業から自動車、電気、化学などの民生産業に移って来ていたちょうどその時、アメリカの最有能な研究技術者は、国防予算とNASA予算を根拠とした航空宇宙産業にいました。そして、航空宇宙産業の最も枢要な部分が、情報産業技術を急速に育てたのです。扱うのは、コンピュータと情報通信システムであり、さらにはそれらを動かすソフトウェアでした。

 人間を宇宙に射出して地球に無事連れ帰るための複雑な仕組みを持った巨大なロケットや人工衛星を運営するためには、機械による自動運行管理システムが必要であり、それはロケットや人工衛星に搭載できる小型コンピュータとそれらと効率的に信号を交換するための情報ネットワークが不可欠でした。

 その最も基礎的な学問分野は数学と電子工学です。第2次世界大戦を勝ち抜くための最も重要な学問分野は原子爆弾の開発の基礎となった数学と物理学とであったのですが、20世紀後半のそれは、数学と電子工学に替わったのです。ここで、大戦前後を通じて、数学が最も重要な学問分野の1つとして変わらないものであり続けていることに注目してください。

核技術開発でも、情報産業技術開発でも、常に数学は中心となる基礎学問。

日本の現代に至るまでの数学軽視体質は、致命傷。

 19世紀末以降、日本では基礎教養として生徒や学生に算数や初歩数学を教えることについては熱心でしたが、大学などの高等教育・研究機関では数学は重要な学問としては扱われてはいませんでしたし、21世紀の現代になっても、依然としてその傾向に変化はありません。そしてアメリカでの主要学問が数学と電子工学になっていた同じ時期の日本の工学部での花形は、電気工学、機械工学と冶金工学でした。

アラン・チューリングとコロッサス
数学者チューリングと世界初の電子計算機コロッサス
〔画像出典:WikipediaFile:Alan Turing Aged 16.jpg (チューリング)、File:Colossus.jpg(コロッサス)〕

 ところで、数学は暗号技術の基礎であり、暗号を最も重視したイギリスは、第2次大戦中にドイツの暗号を解読するために数学者アラン・チューリングに依頼して世界初の電子計算機コロッサスを完成させ、多大な成果を挙げています。またイギリスに次ぎ暗号技術に長けたアメリカが、第2次大戦に至るまでの間の重要な日本の暗号電報文をすべて解読していたことは、よく知られています。その当時から、日本の数学軽視の姿勢は、日本の安全保障をも危機に陥れていたのです。しかし、それ以降現在に至るまで、日本にその自覚はありません。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
©一部転載の時は、「『小塩丙九郎の歴史・経済データバンク』より転載」と記載ください。



end of the page