小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

8. アメリカ第2の産業革命


(2) フォードT型は、長い進歩の通過点(前篇)

 産業革命とは、一つの大発明が社会の突然の大進化を呼ぶというものではないということを、アメリカの20世初頭の大発展を象徴すると言われている自動車産業について見てみましょう。革命的と言われるT型フードはどのようにして生まれ、その後どうなったのかという話をです。

〔画像出典:Wikipedia File:1908 Ford Model T.jpg(1908年モデル)、File:1910Ford-T.jpg(1910年モデル)〕


 先ずは、T型フォードが一つの通過点にしか過ぎないということを、統計数値で明らかにします。経済学者たちは、フォードがベルトコンベアーという新しい工場機械を使った大量生産方式によって大衆が買える低廉な価格の自動車、T型フォード、を市場に出したことから、アメリカの自動車生産が爆発的に増えたと主張しています。確かに、横軸に年数を、縦軸に生産台数をとって経年すると自動車生産台数がどのように増えたのかをグラフに表すと、そのように見えます。

 しかしそれは、縦軸を自然数で表した場合です。しかし縦軸を対数で表すとまるで違った姿が見えてきます。少々、小難しい説明になってしまいますが、少し我慢してください。一般に、数量が毎年同じ増加率で増えていくと、横軸を経年数で、縦軸を数量で表すと、グラフは必ず上向きの急カーブを描きます。しかしそのグラフだけでは、どこからその急成長が始まったのかということをうまく確認できません。全体のグラフの広がりの中で、初期の発展段階の数値は小さすぎて、変化の様子を詳しく見ることは難しいからです。

 そこで便利なのが対数グラフです。対数グラフでは、毎年の伸び率が同じ場合は、数量は右上方向に向かって一直線で伸びていきます。そして増加率に変化があれば、そこから傾きの度合いが違ってくるので、変化があった時点でグラフが右上方向に折れ曲がります。そこで、その急成長がどの時点から始まったのかを特定できるのです。

 ところで、20世紀に入ってからのアメリカの自動車生産台数の変化のグラフの観測です(下のグラフを参照ください)。T型フォードが初めて発売されたの1908年です。縦軸を自然数に採ったグラフ(左目盛)では、確かに1908年以降自動車生産台数が急激に増加しているように見えます。しかし一方、対数軸(右目盛)で生産台数を表してみると、1908年前後で自動車生産台数を表す一直線のグラフに何の変化もみられません。

出典:三輪晴治著『創造的破壊―アメリカの自動車産業にみる』(1978年)掲載データを素に作成

 1900年以降の自動車生産台数の伸び率は、T型フォードが発売される前からおよそ年率40パーセントであり、発売された後も40パーセントであり続けたのです。こうして見ると、T型フォードはアメリカ自動車産業発展史の中で、一つの通過点であって、フォードが革命を起こしたのではないということが次第に分かってきます。以下、具体的に歴史を見て見ましょう。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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