小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

10. 終身雇用を棄てたアメリカ労働市場


(8) アメリカのホワイトカラーの雇用史(前篇)

 以上の様な経緯で、アメリカは1970年代半ばにまでに辿り着きます。つまり、アメリカの労働市場を概観すると以下のような多様な模様で塗られています。アメリカの労働市場は、縦横2つの軸について2分されます。1つは労働者の属性によってホワイトカラーとブルーカラーに分けられます。そしてもう1つは、経営者の理念によって家族型とそうでない一般的な企業に分けられます。

 このうち、日本の多くの人が考えているアメリカの短期雇用の慣行は、家族型でない一般型企業のブルーカラーについての者に限られます。しかもそれらのうち多くの者は、「先任権」という権利を有し、また、企業別労働組合(ナショナルユニオン)によって守られています。家族型経営の企業に働くホワイトカラーの雇用形態は、日本の終身雇用と言われる雇用形態と基本的に同じです。企業から一方的に与えられる定年制がない(退職年齢は、労働者自身が決められる)分、日本よりさらに有利な雇用状態にあると言えます。


 家族経営型企業に働くブルーカラーもホワイトカラーとほぼ同様の雇用慣行の下にあります。これを大まかに分類すると上の表のようになります。これを日本の政治家や多くの経済学者は、一言で、「アメリカは短期雇用であり、日本は終身雇用である」と片付けています。それは、上の表の内容を子細に見れば著しく不当であることは、容易に理解されるでしょう。(なお、この他に公務員やアメリカの大学教授の終身雇用についての制度がありますが〈その説明はここ〉、この表では、そうした者の雇用慣行は含んでいません) 

 そして、そのことが理解されたことを前提として、主張したいことは、このアメリカの雇用慣行が、1970年代半ば以降の情報技術革新を起因とする産業改革を実現するに当たって、根本的に変革されたということです。若干の誤解の余地を残しはしますが、それを日本の政治家や経済学者の単純化が好きな人たちに倣って表現すると、「アメリカは終身雇用制度を捨て、日本はそれにしがみついた」のです。

2017年1月4日初アップ 20〇〇年〇月〇日最新更新
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